はじめに
ランチェスター戦略とは、企業間の営業・販売競争に勝ち残るための理論と実務の体系です。
第一章ではランチェスター戦略の成り立ちと、その原点であるランチェスター法則に触れた上で、そこから導き出された「弱者の戦略、強者の戦略」について解説します。
第二章では「市場シェア理論」と、その元となったクープマンモデルを、第三章では「ナンバーワン主義」をはじめとするランチェスター戦略の三つの結論を、そして第四章では四つの実務体系についてダイジェストで解説します。
1970 年代前半、オイルショックが起こり、それまでの高度経済成長期から一転して日本は不況となります。
市場縮小期に、企業はどうやって勝ち残るのか。
コンサルタントの草分けの故田岡信夫先生(1927 〜 1984)は、それまでのスピード勝負、体力勝負によらない、科学的・論理的な経営戦略・営業戦略が求められると考えました。
成熟市場で企業がいかにサバイバルするかを指導するのがランチェスター戦略です。
取り入れた企業は大不況を乗り越え、今日も繁栄しています。
トヨタ、パナソニック、日本生命、武田薬品などの大企業、ソフトバンク、エイチアイエス、フォーバルなど当時のベンチャー企業、そして多くの中小企業。
数多くの実績と、後進のコンサルタントやマーケッターへ多大な影響をもたらしたことから、ランチェスター戦略は日本において競争戦略・販売戦略のバイブルといわれています。
福永コメント
海外旅行総客数 1 位のエイチアイエスの創業者で現会長の澤田秀雄氏は、2015 年に、志の高い若い経営者を養成する「澤田経営道場」を立ち上げました。
澤田氏は自らが創業時に学んだランチェスター戦略を同道場の教育カリキュラムに取り入れます。私は講師や道場生の選考を担当した後、2020年より道場を運営する財団法人SAWADA FUNDATIONの理事を務めています。
日本で生まれた競争戦略ですが、カタカナの名前がついているのは、「ランチェスター法則」という戦争理論が、その原点だからです。
ランチェスター法則は、イギリス人の航空工学の研究者F.W.ランチェスター (1868〜1946)が第一次世界大戦のとき提唱した「戦闘の法則」です。
兵隊や戦闘機や戦車などの兵力の数と武器の性能が戦闘力を決定づけるというものです。
ランチェスター法則は第二次世界大戦中、米国海軍作戦研究班で研究されます。
コロンビア大学の数学教授 B.O.クープマンらが応用し、「戦争の法則」に発展させます。
「クープマンモデル(ランチェスター戦略方程式ともいう)」と呼ばれます。
戦争の作戦研究(オペレーションズ・リサーチ)は戦後、数学的・統計的な意思決定の方法として研究され、産業界にも広く活用されています。
故田岡先生は 1962 年、社会統計学者の斧田大公望先生とクープマンモデルを解析し、市場シェアの 3 大目標数値を導き出しました。
その後、研究と実務指導を重ね、 1972 年に著書「ランチェスター販売戦略」を出版。経営戦略としてのランチェスター戦略は普及していきます。
福永コメント
故田岡先生の遺志を受け継ぐのが特定非営利活動法人ランチェスター協会です。
私は同会でこれを学び、 1999 年にコンサルタント会社を創業。
ランチェスター戦略を指導原理にした「ランチェスター戦略コンサルタント」として企業の戦略づくりとその推進をお手伝いしています。
同時に、同会では 2005 年に理事・研修部長(12年常務)に就任し、後進のコンサルタントの育成にもあたっています。
ランチェスター法則は戦闘の勝敗を示す軍事理論です。
軍隊の強さ・力を示す戦闘力は武器と兵力数で決まるというものです。
武器は敵と味方の武器の性能や腕前を比率化して捉えます。
敵の 2 倍の性能の武器で戦えば味方の武器性能は 2 です。
敵が味方の 2 倍の腕前なら味方の武器性能は 0.5 です。
兵力数は兵士や戦車や戦闘機の数です。
物量です。
武器性能と兵力数を掛け合わせたものが軍隊の戦闘力です。
法則は二つあります。
それは戦い方によるものです。
■ 勝ち負けのルール
福永コメント
武器の性能を比率化した概念を「武器効率」といいます。
元となった方程式ではエクスチェンジ・レート(交換比)、武器効率と呼びEという記号で示しています。
ただし、結論として示す場合は数学的には「武器性能」と呼ぶべきことから「武器性能 × 兵力数」と示しています。
一対一が戦う一騎討ち戦、狭い範囲で (局地戦) 、敵と近づいて戦う(接近戦)このような原始的な戦いの場合は第一法則が適用します。
第一法則の結論は次の通りです。
戦闘力 = 武器性能 × 兵力数
実にシンプルな法則です。
同じ兵力数なら武器性能が高いほうが勝ち、同じ武器性能なら兵力数が多いほうが勝ちます。
織田信長は鉄砲という最新兵器で勝ちました。
豊臣秀吉は常に敵の数倍の兵力数で勝ちました。
敵に勝つには敵を上回る武器か兵力数を用意すればよいのです。
近代的な戦いの場合に適用するルールをランチェスター第二法則といいます。
集団が同時に複数の敵に攻撃をすることのできる近代兵器 (確率兵器という) を使って戦う戦闘方法を確率戦といいます。
第二法則が適用される戦闘は確率戦で、広い範囲で (広域戦) 、敵と離れて戦う (遠隔戦) 場合です。
マシンガンを撃ち合う集団戦をイメージしてください。
第二法則の結論は次の通りです。
戦闘力 = 武器性能 × 兵力数の2乗
出てくる言葉は第一法則と同じです。
違いは兵力数が2乗となることです。
武器性能は変わりません。
確率戦は相乗効果をあげるから兵力数が2乗に作用するのです。
2乗とは 10 なら 100、100 なら 10,000 です。
とてつもなく大きくなります。
兵力が多いほうが圧倒的に有利です。
兵力の少ない軍は第二法則が適用する戦いでは勝つことは極めて困難です。
福永コメント
第一法則:戦闘力 = 武器性能 × 兵力数、第二法則 : 戦闘力 = 武器性能 × 兵力数の 2 乗は、それぞれの結論を示しています。
これには公式があり、公式を知れば、なぜ第二法則では 2 乗倍するのかが理解が深まります。
拙著ではどの本でも図版を入れて解説しています。たとえば、下記をご覧になるとよいでしょう。
・新版ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則 60ページと70ページそうはいっても、第二法則は本当に当てはまるのか?と感じる方もいらっしゃるでしょう。私は2015年7月、NHKのテレビ番組でこれを実証する実験を監修しました。ご興味あれば、下記の拙著でご確認ください。同書では実験結果より、織田信長の鉄砲隊はランチェスター第二法則の戦い方をしたことを提唱しています。
・ランチェスターの法則で読み解く 真田三代 弱者の戦略 226ページ~233ページ
第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦)……戦闘力 = 武器性能 × 兵力数
第二法則(確率戦、広域戦、遠隔戦)……戦闘力 = 武器性能 × 兵力数の 2 乗
この二つの軍事法則から勝ち方の原則を導きだせます。
まず兵力数が多い軍は常に有利です。
特に第二法則が適用する戦いでは兵力数が2乗に作用しますから、圧倒的に有利です。
では、小が大に勝つにはどうすればよいでしょうか。
第二法則適用下の戦いでは歯が立ちません。
第一法則適用下であれば、武器性能を兵力の比以上に高めれば勝てます。
兵力数は増やせませんが、運用方法には工夫の余地があります。
局地戦に持ち込み、兵力を集中させれば、その局面においては兵力数をライバルよりも多くできます。
軍事用語で局所優勢といいます。
局所優勢の状況を維持して各個撃破していくのです。
つまり、ランチェスター法則から導き出される小が大に勝つ原則は以下の 3 つです。
①奇襲の原則(ランチェスター第一法則が適用する一騎討ち戦、局地戦、接近戦といったゲリラ戦で戦う)
②武器の原則(武器性能を兵力の比以上に高める)
③集中の原則(局所優勢となるよう兵力を集中し、各個撃破する)
福永コメント
下記の拙著では、ランチェスター法則に加えて、「孫子の兵法」から小が大に勝つ原則を導き出しました。
①奇襲の原則、③集中の原則は一致しました。
孫子では②武器の原則は強調されていません(ただし、士気や勢いの重要性は強調されている)。
また、ランチェスター法則からは直接的には読みとれない④機動の原則を孫子では強調されています。風林火山ですね。したがって、ランチェスター+孫子とすると、小が大に勝つ四原則となります。
①奇襲の原則、②武器の原則、③集中の原則、④機動の原則。
・ランチェスターの法則で読み解く 真田三代 弱者の戦略 28ページ~38ページ
軍事理論のランチェスター法則を企業間競争に応用します。
戦闘力を、事業の競争力と置き換えます。
第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦)……競争力 = 経営の質の要素 × 量の要素
第二法則(確率戦、広域戦、遠隔戦)……競争力 = 経営の質の要素 × 量の要素の2乗
まず、大きく捉えるなら武器は商品力、兵力は販売力です。
細かくは、情報力、技術開発力、品質や性能、ブランドなどの製品の付加価値、顧客対応力、営業パーソンのスキルなどの経営の質の要素が武器です。
社員数、営業パーソン数、販売代理店の当社担当者数、製造現場の設備機器数、売り場面積、席数など、経営の量の要素が兵力です。
これら経営の質の要素と経営の量の要素を掛け合わせたものが企業の営業力を決定づけます。
戦闘における第一、第二の法則はビジネスにどう応用できるでしょうか。
大きく捉えるなら、特定の商品、地域、販売チャネル、顧客層、顧客といった部分的な競争なら第一法則が適用し、総合的・全体的な競争なら第二法則が適用します。
総合的・全体的な競争の場合、経営の量の要素が 2 乗のパワーとなることを意味します。
経営の量の要素の乏しい(小さい会社、業界二番手以下の会社)は、部分的な競争に持ち込まなければ勝ち目はないということです。
福永コメント
私が「ランチェスター戦略コンサルタント」と名乗っているのは、このためです。
大手のコンサルティング会社と同じように総合的なメニューを打ち出しても太刀打ち困難です。
得意分野に絞り込んでいるから成り立つのです。
大手が百貨店型なら、当社は専門店(ブティック)型のコンサルティング会社です。
ランチェスター法則が示す小が大に勝つ三つの原則から弱者の戦略が導き出されました。
弱者の基本戦略は「差別化戦略」です。武器性能を高めることです。
差別化とは商品をはじめ、会社、人材、情報、サービスの質的な独自性、優位性です。
兵力を集中することを「一点集中主義」といいます。
重点や集中という言葉も、一般によく使われていますが、ランチェスター戦略の場合は、兵力数の優位性から導かれています。
つまり、量的な優位性を築くために、自社の経営資源を重点配分することです。
このほか第一法則的な部分的な戦い方「局地戦(地域や領域の限定)」「接近戦(顧客に接近する販売チャネル、営業活動、顧客志向)」「一騎討ち戦(競合数の少ない競争、顧客シェア重視)」「陽動戦(奇襲戦法)」が弱者の戦略です。
一方、兵力数の多い企業は第二法則的な総合的な戦いを行えば、圧勝できることから強者の戦略が導き出されました。
強者の基本戦略を「ミート戦略」といいます。
弱者の差別化戦略を封じ込める意味です。同質化競争に持ち込めば武器性能が同等となるので兵力数で勝敗が決まります。
模倣、追随、二番手作戦などをミートと呼んでいます。
このほか第二法則的な総合的な戦い方「誘導戦(先手必勝のおびき出し作戦、新たな需要の創造)」、「確率戦(競合数の多い競争を重視、フルラインの品揃え、自社系列内競合など自社の力を重複化させる)」、「広域戦(地域や領域を限定せず拡大していく)」「遠隔戦(間接販売会社の力を活用、広告などの情報発信で顧客に接近する前に勝敗をつける)」、「総合主義(総合力で戦うこと)」が強者の戦略です。
福永コメント
弱者の戦略のなかで私が差別化、集中とともに重視しているのが接近戦です。顧客のニーズを把握し、自社の差別化された強みを合致させていく接近戦です。
そのため、顧客接点の量的・質的優位性を築く必要があります。
商品の差が見出しにくいほど、接近戦が決め手となってきます。弱者の戦略、強者の戦略については事例を知ることと、ご自身の経験したことや見聞したことを分析することで理解が深まります。
どの拙著でも数多くの事例をあげておりますが、たとえば下記がお奨めです。・新版ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則 *豊富な事例の入門書
・小が大に勝つ逆転経営 社長のランチェスター戦略 *コンサル事例で解説する社長向け
・世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業 *大企業の事例が多い
・ランチェスター戦略「小さなNo.1」企業 *中小企業の事例が多い
ランチェスター戦略は市場シェアを判断基準にして弱者と強者を定義づけます。
強者とは市場シェア1位企業であり、弱者とは2位以下のすべての企業を指します。
市場シェア1位の企業のみが強者です。
経営規模の大小ではありません。そして、この判断は競合局面ごとにします。
商品・地域・販売チャネル・顧客層・顧客の別に分析しなければなりません。
個々にみていく理由は、弱者と強者とではとるべき戦略が180度違うからです。
市場シェア情報も乏しく自分が弱者か強者かの見極めが困難な会社もあるでしょう。
迷ったら、弱者だと判断してください。
自社調べでは自社が実態以上に大きくなりがちです。
また成長してきた新興企業は数字上強者になっていたとしても、老舗企業の格やイメージが顧客や世間に残っていますので弱者の戦略をとるべきです。
強者は弱者の戦略をとっても成り立ちますが、弱者が強者の戦略をとるのは根本的な間違いを犯すことになることからも、「迷ったら弱者」です。
弱者・強者は市場シェアで判断します。市場シェアは何%とるべきなのか、他社との差は何を意味するのか、次の第2章で解説します。
ランチェスター戦略は別名「市場占有率(マーケット・シェア、市場占拠率)の科学」といわれます。
シェアの理論は戦争の勝ち負けのルール「クープマンモデル」から導き出されたものです。
シェアの目標値を科学的に示した世界唯一の理論です。
第二次世界大戦中、米軍は学者を徴用して作戦研究班(オペレーションズ・リサーチ・チーム = ORチーム)を編成し、戦争を科学的・数学的に研究しました。
コロンビア大学数学教授B.O.クープマンらはランチェスター法則に着目し、戦争の法則を数式化しました。 クープマンモデルといいます。ランチェスター戦略方程式、ランチェスター戦略モデル式ともいいますが、ランチェスター氏が提唱したのではないので、筆者らはそう呼んでいます。
ランチェスター法則は戦闘の法則です。
戦闘開始時の兵力数と武器性能により戦闘力が定まるというものです。
戦闘条件が終始変わらなければ問題ありません。
しかし、長期的な戦いとなると戦闘条件は時間の経過とともに変わります。兵力や武器弾薬、食料などの物資は生産され補給されます。
生産・補給の概念が戦争の勝敗に大きく影響するのです。
クープマンらは戦争力を敵軍と直接交戦する戦術力と、敵の生産・補給拠点を攻撃する戦略力とに区別して捉えます。
資源を戦術力よりも戦略力に重点的に配分したほうが戦略が高まり、効率的に戦えることを示しました。
戦術よりも戦略がより重要だということです。
米軍は重い爆弾を長距離運び、敵の生産・補給拠点を攻撃できる戦闘機B29を開発しました。
B29は戦術爆撃をする戦闘機ではありません。戦略爆撃機といわれる所以です。原爆を運び、爆撃したのもB29です。
対する日本軍は、真珠湾攻撃で敵の軍艦を多数撃破しましたが、軍需工場や燃料貯蔵庫などの生産・補給拠点にはほとんど手をつけませんでした。
このため米軍は軍艦を修理することができ、6カ月後のミッドウェー海戦で日本軍を破るに至るのです。
日本軍は戦術力を重視し、戦略力を軽視していたといわざるをえません。
南方戦線では敵の戦術攻撃で戦死する兵士より補給不足で餓死・病死する兵士のほうが多い始末でした。
福永コメント
戦略の失敗は戦術では取り返せない、と申します。戦略とは意思決定です。何をやるのか。目標を達成するためのシナリオと資源配分を決定することです。
戦術とは意思遂行です。どのようにやるか。戦略シナリオ実行の手段です。
1962年、故田岡先生は社会統計学者の斧田大公望先生と、クープマンモデルを解析して73.9%、41.7%、26.1%の市場シェア3大目標値を導き出しました(田岡・斧田シェア理論)。
後に故田岡先生は3大目標値の組合せから、19.3%、10.9%、6.8%、2.8%の4つを導き出し、市場シェア7つのシンボル目標数値を体系づけました。クープマン目標値とも呼ばれますが、クープマン氏らが提唱したのではないので、筆者らは「ランチェスター戦略7つのシンボル目標値」と呼んでいます。
これらは実務上キリのよい75%、40%、25%、などと覚えてもらっても差し支えありません。
現在のシェアの競争上の位置づけと、市場に対する影響力などの現状分析と、短期・中期・長期のシェアアップ目標を策定する際の基準値です。
福永コメント
斧田先生は「少年時代に戦争を経験した我々は、なぜ、日本はあんな悲惨な負け方をしたのか。この痛恨の極みを教訓としなければならない」という使命感で、これに取組んだと私に語られました。
クープマンモデルとはどういう数式で、そこから田岡・斧田両先生はどのように解析して73.9%、41.7%、26.1%を導き出したのか。
確認したい方は下記拙著をご覧ください。数式を示しています。
・ランチェスター戦略「営業」大全 288ページ〜289ページ
73.9%を確保すれば、全ての競合他社を足しても26.1%にしかならず、約3倍の差をつけることができます。
いかなる戦いも終結させ、絶対的な一人勝ちできることから市場シェアの最終目標数値として位置づけられました。
大きな市場で一社が7割を超えるケースは、ハンバーガーチェーン市場におけるマクドナルド(75%)など、わずかしか存在しません。
大きな市場でシェア7割は独占禁止法の関係もあり、現実的な目標とはなりません。
しかし、ランチェスター戦略は市場を細分化し、個々の市場で競争地位別の戦い方をすることを指導原理にしています。
商品、地域、販売チャネル、顧客層、顧客と市場を細分化していけば独禁法の影響は受けません。
それに弱者はニッチ市場を狙うことも戦略です。
ニッチ市場で7割前後のシェアを誇る企業は数多くあります。
たとえば、お茶漬けの素の市場規模は全体で150億円弱。永谷園はその76%を占めています。2位は5%程度です。
それなら100%独占すればいいでしょうか。
一社独占は必ずしも成長性・収益性・安全性が高いとはいえません。
シェア100%はライバルがいない無競争です。市場が縮小し、成長性が高いとはいえません。
競争があるから各社、製品開発や営業活動などを行い需要が活性化され市場が拡大するのです。
次に収益性です。
シェア7割を超える会社は既に優良な顧客を確保し尽しています。
一般に需要規模が小さすぎる先、移動効率が悪い先などが残ります。
また、世の中には筆者のような判官びいき(弱者を応援する気風の持ち主)がいるものです。
そんなアンチ派にまで支持を広げるのに開発・販促・営業コストをかけるべきとは思えません。
100%独占は安全性が高いともいえません。
メーカーが材料や部品を調達する場合、1社からしか調達できないと、仕入れるメーカーにとってはリスクですから、代替品を探すのではないでしょうか。
その代替品によって市場そのものを失う恐れもあります。
また、ランチェスター戦略では弱者は一騎討ちで市場参入せよというセオリーがあります。
1社独占ならライバル1社ですから勝率五割。弱者の狙い目となってしまいます。
以上から、100%独占は決してよい状態とはいえません。
ライバルがいて、しかも強すぎず、束になってかかって来ても余裕で返り討ちにできる3倍のシェア差がある73.9%こそが、成長性・収益性・安全性が最も高まる上限の目標値となるのです。
ランチェスター戦略のシンボル目標数値のなかで最も有名なのが41.7%安定目標値です。市場シェア40%は首位独走の条件です。
安定なら過半数の51%ではないかと思われるかもしれません。
2社間競合なら51%を獲得してもライバルが49%なので安定とは言えず、73.9%を確保しなければなりません。
しかし、全国区の総合的な競争では2社間競合は稀です。
多くの業界は5社以上の競合があるので、40%でまず間違いなくダントツになれます。
ダントツになれば成長性・収益性・安全性が高まります。
2位以下は消耗戦を仕掛けても太刀打ちできないので住み分けを意識するようになるからです。
40%を下回ると1位であってもダントツとはいえないケースが増えます。アサヒとキリンが38%前後で拮抗していることが典型例です。
福永コメント
ランチェスター戦略のシンボル目標値のなかで最も有名なのが41.7%(≒40%)です。
「シェアはみんなが考えている以上に大事です。40%を切るか切らないかでは、天と地ほどの差がある。40%は単に区切りの数字かもしれないが、経営には明確な旗が必要です。40%はひとつの旗、旗を掲げた以上、それを必ずなびかせなければならない」
「 」内は福永のコメントではなく、1995年、トヨタの社長に就任した直後の奥田碩さんのコメントです(出所:「トヨタ・ストラテジー」佐藤正明著)
26.1%を確保すれば多くの場合、1位すなわち強者になります。
分散市場ではそれ以下であっても1位のケースもありますが、その多くの場合は2位とは僅差の1位ではないでしょうか。
いつ逆転されてもおかしくない状況では1位といっても強者の戦略がとれない場合が多いでしょう。
1位であればせめて26.1%は確保すべきです。
そこから26.1%下限目標値が定義されました。下限とは強者の最低条件という意味です。
26.1%以上を確保すれば、仮に残り全てが合併しても73.9%を下回ります。
その差は3倍未満です。これなら何とか生き残れます。
が、残り全てが合併して73.9%を上回ると、対抗できません。
26.1%は、どんなことがあろうとも生き残ることのできる競争地位を示します。
73.9% | 上限目標値 | 独占的となり、その地位は絶対的に安全となる。ただし、1社独占は必ずしも安全とはいえない。 |
41.7% | 安定目標値 | 地位が圧倒的に有利となり立場が安定する40%は首位独走の条件として多くの企業の目標値 |
41.7% | 安定目標値 | 地位が圧倒的に有利となり立場が安定する40%は首位独走の条件として多くの企業の目標値 |
26.1% | 下限目標値 | トップの地位に立つことができる強者の最低条件。安定不安定の境目。これを下回ると1位であっても、その地位は安定しない |
19.3% | 上位目標値 | 3位以内の上位と想定できる。1位が狙える地位 |
10.9% | 影響目標値 | 10%を超えると有名な会社だが、超えないと無名。10%を超えると黒字、超えないと赤字の場合が多い |
6.8% | 存在目標値 | 顧客内シェア5%未満は顧客から継続的な仕入先として認知されにくい。スポット的、お試し段階。 |
2.8% | 拠点目標値 | 市場参入できたか否かの判断基準。上回れば橋頭保ができた段階 |
以上の73.9%、41.7%、26.1%がクープマンモデルから直接導き出したシェアの三大目標値(田岡・斧田シェア理論)です。
後に、現実のシェア競争はもっと分散しているケースも多いこと、また、26.1%に到達するまでのマイルストーンが必要との実務上の要請から、故田岡先生が次の四つの目標値を付け加えました。
・19.3%(上位目標値)26.1%×73.9%と算出
19.3%(≒20%)を確保すれば、多くの場合上位3位以内に入れるでしょう。20%は弱者が当面の目標とすべき数字です。ここまで来れば1位の背中が見えてきます。戦略を1位獲得に転換します。分散型市場では1位のケースもありますが、極めて不安定です。
・10.9%(影響目標値)26.1%×41.7%と算出
10%を超えると有名な会社だが、超えないと無名。10%を超えると黒字、超えないと赤字の場合が多いことから市場参入時の市場シェア目標や、新規開拓の顧客内シェアの目標となります。「10%足掛かり」といわれます。
・6.8%(存在目標値)26.1%×26.1%と算出
6.8%(≒7%)を超えると、市場に存在が認められます。一方、影響を及ぼす力はないので本格的な競争には巻き込まれません。ひたすら自社製品の普及に取り組めばよい時期です。発売から時が流れても7%を超えないようなら勝ち目はありません。撤退の判断基準にも使われます。 顧客内シェア5%未満は顧客から継続的な仕入先として認知されにくいです。スポット的、お試し段階。
・2.8%(拠点目標値)6.8%×41.7%と算出
2.8%(≒3%)は市場参入時に、参入できたか否かを判断する第一の判断基準です。3%→7%→10%が市場参入のマイルストーンです。10%を超えると本格的な競争に突入します。
・細分化して26.1%を目指せ
参入して時間が経過してもシェアが低い場合は、市場全体でシェアを上げていくことよりも、市場を細分化して、細分化したセグメント(部分市場)で26.1%の1位をとることを考えるべきです。商品、地域、販路、用途、顧客内シェアなど26.1%をとれそうになるまで細かくすることです。
福永コメント
73.9%、41.7%、26.1%の三大目標値のほかに私がよく使うのは10.9%(≒10%)です。
私は「有名・無名の分岐点」、「黒字・赤字の分岐点」と呼んでいます。
また、10.9%(≒10%)はシェアと利益の相関関係を調査した際に、転換点となる数値であることもわかりました。
詳しくは、下記の拙著でご確認ください。同書ではシェアが上がれば利益率が高まることを統計調査で確認しました。
・「営業」で勝つ!ランチェスター戦略 203ページ~
ランチェスター戦略以外のシェア理論で役立つのが「相対市場シェア」概念です。
自社と最大のライバルとの比率のことです。
例えば自社が2位20%で1位が30%だと自社の相対シェアは0.67(30分の20)です。
自社が1位20%で2位が15%なら自社の相対シェアは1.33(15分の20)です。
同じ20%であってもライバルが何%であるかによって力関係は全く異なり、立てる戦略も変わります。
他社との差を分析する方法としてランチェスター戦略では三:一の法則(射程距離理論ともいう)があります。
上限目標値73.9%と下限目標値26.1%を足すと100%。
その比2.83≒3倍。2社間競合の場合、敵の3倍差をつければ勝敗は決することを意味します。
常に三人一組で一人の敵と戦った赤穂浪士の討ち入りでも示された軍事上の常識です。
ただしこれは、ランチェスター第一法則適用下の場合です。
全国や地域のシェアなどは第二法則適用下なので、2乗して3倍になるルート3倍が射程距離となります。
約1.7倍、5:3の比率です。
射程圏内か圏外かにより、上位に対しては逆転可能なのか当面は困難なのか、下位に対しては安全圏なのか、いつ逆転されてもおかしくない状況なのかを見極めます。
短期・中期・長期のシェアアップ目標設定に反映させます。
ランチェスター戦略シェアの三大目標値と射程距離理論を掛け合わせると、同業者の競争パターンは次の四つに類型できます。
・分散型 | ①1、2位間、2、3位間などの上下の差がルート3以内、 ②1位が下限目標値26.1%以下 |
・3強型 | ①1位が2、3位の合計以下で、1〜3位の差がルート3倍以内、 ②1、2、3位の合計が73.9%以上 |
・2強型 | ①1、2位の差がルート3倍以内、②1、2位の合計が73.9%以上 |
・1強型 | ①1、2位の差がルート3倍以上、②1位が安定目標値41.7%以上 |
時間の経過とともに大手寡占化が進むのが世の常です。
一般に分散型→3強型→2強型→1強型と推移します。
現在の競争パターンを知ると近未来を予測できます。
現在3強型の3位なら、2強時代に負け組になる可能性が高いので、今のうちに2位を確保すべきです。
このようにシェア類型もシェアアップ目標を定めるときに意識します。成熟市場で大切なのは「敵」の設定です。
福永コメント
シェア争いの推移は次のような傾向を示すことがあります。
1位極大化、2位じり貧、3位漁夫の利・微増、4位以下脱落。
なぜ2位はじり貧するのか。
それについては第3章1にて。
ランチェスター戦略には結論的に重要なキーワードが三つあります。①「足下の敵」攻撃の原則、②ナンバーワン主義、③一点集中主義、です。第三章で解説します。
成熟市場において売上・利益・シェアを上げるには同業他社から顧客を奪うしかありません。
「どのライバルからでも、同業者はすべて敵なので、すべてから奪う」と考えては、確率戦となり体力が消耗するわりに得るものが少なくなります。
敵を定めて狙い撃ちすべきです。では、どの敵から奪うか。
答えは、足下の敵です。
足下とは1ランク下です。
自社が1位であれば2位、2位であれば3位です。
「足下の敵」攻撃の原則といい、ランチェスター戦略三つの結論の一つです。
・トヨタ、日産、ホンダのケース
自社よりも上を狙うのは危険です。第2章の8で2位はジリ貧と言いました。
かつての日産が衰退したのはトヨタに張り合い過ぎたことが最大の原因です。
張り合うとは同質化競争(ミート戦略)です。
同じ武器で戦えば、兵力数で優る上位企業が有利です。
ランチェスター戦略では2位は弱者と定義していますが、一般に2位の企業は自社を弱者とは思っていません。
強者だと意識しているものです。
特に日産は名門企業でしたから、その意識は強いものでした。
しかし、弱者、強者は市場シェアの問題であって規模や歴史や格式は関係ありません。
裏を返せば、下位企業と同質化競争をすれば有利に戦えます。日産はホンダにミートすればよかったのです。
・大正、第一三共、武田のケース
市販の風邪薬市場のケースです。
2005年、3位9.3%の武田薬品ベンザは「あなたの風邪に狙いを決めて」をキャッチコピーに発熱、のど、鼻の症状別に3種類の風邪薬を市場投入しました。
差別化戦略です。
これに対し2位13.3%の第一三共ルルは、長年使い続けたキャッチコピー「くしゃみ3回、ルル3錠」を「熱、のど、鼻にルルが効く」に変えました。
ベンザでは風邪薬代が3倍かかり、ルルなら一つで全部に効きます、という意味のコピーです。
弱者の差別化を無効にする、これもランチェスター戦略のミート戦略の一種です。
結果、06年、第一三共は14.4%にアップし、武田は9.5%と微増にとどまりました。
ちなみにダントツ1位の大正製薬は33%から29.5%にダウンしました。
3位の仕掛けに2位が封じ込め作戦で対抗し、1位が我関せずと動かなかった結果です。
自社よりも下位を叩くなら足下より、さらに下位のほうが叩きやすいですが、その間に足下が浮上してこないとは限りません。
射程距離が大切ですので、優先すべきは足下です。
ただし、いかなる場合も足下を叩けばよいということではありません。
伸び率、企業規模などを踏まえて応用してください。
大切なことは敵を絞ることです。
一方、頭上の敵に対しては、その動きを把握し差別化しなければなりません。
日本で1番高い山が富士山であることを知らない人はいません。
では、2番目に高い山をあなたはご存知でしょうか?
答えは南アルプスの北岳ですが、答えられるのは十人に一人程度です。ご当地の山梨・長野にゆかりがあるか、山が好きな人か、ランチェスター戦略のセミナーを受けた人くらいでしょう。
1番と2番とでは埋めがたい大きな差があります。
ビジネスも同じです。
1番でなければなりません。
1番だけを強者といい、2番以下は弱者と呼ぶゆえんです。
ただし、1位といえども2位以下との差が少ない2強、3強、分散型という射程圏内にライバルがいる状況だと、不安定な1位です。
下位企業もなんとか逆転したいと挑戦し、激しい消耗戦が繰り広げられ、お互いに収益性が高まりません。
2位以下を射程圏外に引き離すダントツになったら、どうでしょうか。
2位以下はダントツと張り合っていたら体力的にもちません。
全面対決を避け、住み分けを意識します。戦いは終結に向かい、地位は安定し収益性は格段によくなります。
2位以下を射程圏外に引き離すダントツのことを、ランチェスター戦略では単なる1位と分けてナンバーワンと定義しています。
射程距離はルート3倍(約1.7倍)を標準とします。
2社間競合や客内の単品シェアのような局地戦の場合は3倍を適用します。
営業目標にゴールを設定するならば、それはナンバーワンのシェアです。
福永コメント
ナンバーワンと41.7%、1位と26.1%はおよそ相関しています。
1位が41.7%を超えると、7割以上の確率で2位をルート3倍以上引き離したナンバーワンとなります。
2位の8割は26.1%未満です。
つまり、41.7%≒ナンバーワン、26.1%≒1位です。これは統計結果です。確認したい方は下記拙著をご覧ください。・世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業 126ページ~127ページ
いかにしてナンバーワンになるか。既に1位の強者は「足下の敵」攻撃の原則で2位を叩きます。
たとえば自社が1位でシェア30%、2位が25%だとすると、その差は5%です。
2位からシェア5%を奪い取れば、自社は35%にアップし、二位は20%にダウンします。
その差15%となり、ルート3倍の射程圏外です。ナンバーワンとなります。
では弱者はどうすればよいのか。
ナンバーワンなんて、弱者には夢のまた夢、と思うかもしれません。
確かに全体で勝つのは至難の技。一部分で勝つことを考えます。
特定の地域、販売チャネル、顧客層、顧客、そして商品。領域を細分化すれば既に1位の分野があるかもしれません。
1 位ではないが逆転可能な射程圏内に入っている分野なら、探せばきっとあるはず。
そこを狙うのが弱者のナンバーワンづくりです。
一点集中主義といいます。集中すべき分野を決め、どのライバルよりも量的経営資源を投入します。
ナンバーワン主義、「足下の敵」攻撃の原則、一点集中主義をランチェスター戦略三つの結論と呼びます。
福永コメント
規模は小さくても特定市場でナンバーワンのシェアをもつ会社「小さなナンバーワン企業」は同業者に比べておよそ三倍の収益性があることを統計調査でわかりました。 下記の拙著でご確認ください。
・ランチェスター戦略「小さなNo.1」企業 46ページ~53ページ以上がランチェスター戦略の基本理論です。
では、これを企業はどのように導入し、成果を上げていくのか。
第4章で、ランチェスター戦略の実務体系を解説します。
第3章までがランチェスター戦略の基本理論です。自社の経営戦略づくりに役立てます。
そのうえで、既存事業の深耕戦略と新分野への進出戦略に活用できる実務体系がランチェスター戦略にはあります。第4章でそれを解説します。
ランチェスター戦略は中小企業向けといわれます。多くの理論が大企業向けにつくられているのに対して、「小が大に勝つ」戦略が理論化されているので、その通りですが、大企業に向かないわけではありません。
大企業でも支店・営業所で既存事業を深耕する販売目標・戦略・行動計画を策定する際には大いに役立ちます。
福永コメント
筆者(福永)も中小企業のみならず、大企業にもランチェスター戦略を導入してきました。中小企業の場合は社長をはじめとした経営層・営業責任者へ、ランチェスター戦略を指導原理にしたコンサルテングで経営戦略・販売戦略の策定方法を導入してきました。
大企業の場合は営業所長などを対象とした「ランチェスター戦略研修」で販売目標・戦略・行動計画の策定方法を導入してきました。ランチェスター戦略は「ブランチ(支店・営業所)の戦略」「汗の匂いのする戦略」といわれるゆえんです。
・中小企業のコンサルティングについてはコチラを参照
・研修についてはコチラを参照
顧客最前線の営業現場にこそ、戦略が必要であるとランチェスター戦略コンサルタントの筆者は考えます。というのも弱者・強者、シェア順位は商品・地域・販売チャネル・顧客によって入れ替わります。会社が大きいからといって強者とは限りません。逆に小さいからといって必ずしも弱者ではありません。
営業現場単位で市場地位を見極め、地位に応じた戦略で戦うべきです。同じ会社でも営業現場単位で戦略を切り替える必要があります。だから営業現場に戦略が必要です。戦略は社長や本社が考え、現場は実行するのみということでは勝てません。
既存事業を深耕する販売目標・戦略・行動計画を策定するのに役立つのが、ランチェスター戦略の「地域戦略」「販売チャネル戦略」「シェアアップ戦略」「営業戦略」の実務体系です。
一方、経営レベルでは新分野への進出戦略も必要です。それについては「市場参入戦略」の実務体系があります。
第4章では
2.ランチェスター市場参入戦略編
3.ランチェスター地域戦略編
4.ランチェスター販売チャネル戦略編
5.ランチェスター シェアアップ戦略編
6.ランチェスター営業戦略編
について、その要点を解説します。
3企業の成長発展の方向性は4方向あります。一つは既存製品を既存市場に販売する市場浸透戦略です。これについては次項の「3.ランチェスター地域戦略編から、6.ランチェスター営業戦略編まで」の体系で既存事業の深耕戦略として解説します。
二つ目が既存市場に新製品を投入する製品開発戦略、三つ目が既存製品を新市場に売っていく市場開拓戦略、そして四つ目が新製品を新市場に投入する多角化戦略です。ランチェスター市場参入戦略編では、製品開発戦略、市場開拓戦略、多角化戦略を取り扱います。
ランチェスター市場参入戦略編の要点は市場の時期や先発・後発の順によって戦略を転換することです。市場導入期はグーの戦略、市場成長期はパーの戦略、そして市場の成熟期以降はグーの戦略をとることが原則です。グーパーチョキ理論と申します。
先発して市場に参入する場合はグー→パー→チョキと戦略を時期に応じて転換していきます。後発の場合は参入時期によって戦略が異なります。いずれも、いま、どんなときを戦っているのかを把握することが要点です。
福永コメント
ランチェスター戦略の第1の指導原理は「市場地位別の戦い方」です。弱者には弱者の戦い方がある、1位とナンバーワンでは異なる、「足下」を叩く、といった市場シェアとその順位によって戦略が異なることを指導しています。
第2の指導原理が「市場時期別の戦い方」です。市場の導入期と成長期と成熟期以降とではとるべき戦略が異なることです。これがグーパーチョキ理論です。
市場参入戦略編が充実しているのが下記の拙著です。
・ランチェスター戦略「営業」大全 73ページ~
・世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業 146ページ~。
地域戦略は営業地域(メーカー・卸のテリトリー、店舗型ビジネスの商圏)を細分化し、 重点化し、ナンバーワンのシェアの地域をつくっていく実務です。地域全体での市場地位 に応じて重点地域の選択基準が異なることが要点です。
市場規模、市場シェア、人口、世帯数など、地域を定量的にとらえるのみならず、地域特 性(点・線・面、うちもの・そともの、など)を定性的にとらえる独自のノウハウが充実 しています。
ランチェスター戦略の原点は軍事戦略理論。戦争とは領土の奪い合いです。この原点との 親和性が高く適用事例も多い。ターゲット地域を決定する “ランチェスターの華”とい える実務です。
これ以降の実務体系の4.ランチェスター販売チャネル戦略編、5.ランチェスター シェア アップ戦略編、6.ランチェスター営業戦略編は営業員がいる会社の実務です。小売店や店 舗型サービス業の場合は、訪問外販は限定的ですので、この3.ランチェスター地域戦略 編が中心的課題になります。
福永コメント
地貴社には地図があるでしょうか。自社の売り上げの母なる大地を捉えた地図が。顧客の分 布状況や自社とライバルの拠点が一覧できる地図は地域戦略の必須アイテムです。
地図の作り方や、各地の攻略方法の原則については下記がお奨めです。
・ランチェスター戦略「営業」大全 109ページ~
チャネルを制するものは市場を制する。市場シェア1位の強者は最大の販売チャネルをも っています。弱者は既存のチャネルでは強者に歯が立たないので、強者とチャネルを差別 化します。新たなチャネルが登場した時も、弱者は強者と差別化できるので積極的に反応 します。強大なチャネルをもつ強者はそれを守ろうとして後手になることがあります。弱 者逆転が起きやすいのです。
販売チャネルの区分方法はいつくかありますが、直接販売と間接販売の区分は重要です。 弱者は直接販売を重視すべきです。間接販売をする場合でも川下作戦や源流営業といわれ る「顧客の顧客やユーザー・消費者」に接近していくことが販売チャネル戦略の要点です
福永コメント
筆者(福永)は、販売チャネルを幅広くとらえて、販売方法全体として考えます。見込事業 か受注事業か。5つの販売方法。ルートセールス型か案件セールス型か、など。
それら広い意味での販売チャネル戦略については下記がお奨めです。
・ランチェスター戦略「営業」大全 167ページ~
シェアアップ戦略は間接販売の場合は販売チャネルやその先の顧客をとらえて、直接販売 の場合は顧客をとらえて、シェアアップのシナリオを描き、ターゲットとなる代理店やユ ーザーを定めることです。
シナリオとは、①新規開拓を何軒行うのかの増客、どの顧客の顧客内シェアを上げて何軒 ランクアップさせるのかの増注。②どの地域、どの顧客層、どの商品で増客・増注をする か、を決めることです。
シナリオづくりとターゲット選定を定めるために、ランチェスター式ABC分析を行い、顧 客を戦略的に格付けることが、ランチェスターシェアアップ戦略編の要点です。カバー 率とAa率(大口需要先のなかでの自社メイン先の割合)からシェアアップのシナリオを導 く「構造シェア」という概念もあります。
ターゲット顧客を決定する“ランチェスターの要(かなめ)”といえる実務です。
福永コメント
シェア30%を来期35%にしたいとき、あと5%多く働け、といっても達成しませんね。 Aa候補先や新規開拓先を固有名詞であげないと現場で役立つ戦略は作れません。ランチ ェスター戦略が構築されて40年以上が過ぎた今日も、多くの営業現場が取り入れているの は、この実務体系があるからに他なりません。これを実行せずして、ランチェスター戦略 を知っているとは言い難いのです。
ランチェスター式ABC分析の方法やシェアの把握方法については下記がお奨めです。
・ランチェスター戦略「営業」大全 195ページ~
1 営業員攻撃力の法則 :攻撃力=活動の質×活動の量
*優れた人材が適正な戦略のもと適正な活動をたくさんやれば業績が上がること
を意味する
2 営業員攻撃量の法則 :攻撃量=商談時間×商談件数・回数
*攻撃とは顧客とのコンタクトをしている時間と捉えている。訪問と訪問以外の
顧客とのコンタクトの質・量を最適化する
3 営業チーム攻撃力の法則:攻撃力=活動の質×活動の量の2乗
*チームパワーを発揮すれば相乗効果を発揮して足し算以上の成果が上がる
上記の法則を基に、営業活動を最適化していく実務体系です。ルートセールスや既存客の 増注において大切なことはランチェスター シェアアップ戦略で定めた顧客の戦略的格付 けに応じた、攻略の方針と攻略の量の最適化です。定期訪問が要点です。
案件セールスや新規開拓の増客において大切なことは商談プロセスの定義とその進捗管理 です。新規開拓4回訪問の原則という手法もあります。
福永コメント
DX(デジタル化)、非接触型コンタクト(訪問以外の顧客接点)、働き方改革(残業減)、 離職率を下げチームパワーを発揮させること、といった時流を捉えて、営業部門は営業方 法をバージョンアップしていかなければ競争力は高まりません。
筆者(福永)は ・残業を減らしながら訪問を増やし、業績を向上させる方法 ・全員参加型営業マニュアルの作成 ・令和時代の営業員像づくり といったコンサルティングに取り組んでいます。
・コンサルティングについてはコチラを参照 *下記をリンクさせる
ランチェスター式ABC分析の方法やシェアの把握方法については下記がお奨めです。
・ランチェスター戦略「営業」大全 233ページ~
第一次世界大戦の頃、イギリス人のエンジニアF・W・ランチェスターは戦闘機の開発に従事していました。彼は自分が開発した戦闘機が戦闘でいかなる成果をあげるのかに興味を持ちます。研究した結果、兵力数と武器性能が一軍の戦闘力となり、敵軍に与える損害量を決めることを発見します。これがランチェスター法則です。第一・第二の二つから成り立ちます。このランチェスター法則がランチェスター戦略の原点です。
第二次世界大戦のとき、アメリカ軍はランチェスター法則を応用し、戦闘力を敵軍と戦う直接的な力と、敵軍の後方を攻撃し敵が戦争をすることを困難にする間接的な力に分けてとらえます。コロンビア大学の数学教授であったB・O・クープマンらがオペレーションズ・リサーチ(OR=作戦研究)チームを作り、導きだしましたことからクープマンモデルといいます。
戦後、ORは産業界へ応用されていきます。フォルクスワーゲン社がカナダに進出した際にも使われたといわれています。
日本ではコンサルタントの故田岡信夫先生が、これを研究し販売競争に勝つための理論と実務として体系化しました。1970年代以降、多くの企業がこれを学び応用して取り入れ実戦し勝ち残っていきました。
多くの戦略理論や経営手法がアメリカ生まれであるのに対してランチェスター戦略は原点こそ欧米ですが、ビジネス戦略として体系化づけられたのは日本です。日本発ということと多くの企業が導入してきたこと、コンサルタントやマーケッターが多かれ少なかれ、この理論の影響を受けてきていることから「販売戦略のバイブル」ともいわれます。
ランチェスター戦略とはランチェスター法則、クープマンモデルをベースに故田岡信夫先生が構築した販売戦略、競争戦略です。イギリスで生まれ、アメリカで育ち、日本でビジネス戦略として花開いたものです。
田岡先生没後、先生の遺志を受け継ぐ特定非営利活動法人ランチェスター協会が設立されました。弊社代表の福永雅文は同会で学び、2005年以降、同協会常務理事・研修部長として同会の講座やテキストの責任者を務めています。同会認定インストラクターの育成も行っています。弊社(戦国マーケティング株式会社)は同会の公認のもと、ランチェスター戦略を基盤としたコンサルティング業務、研修、講演、著述活動を行っています。
謝辞
ランチェスター販売戦略は、昭和45年に故田岡信夫先生がランチェスターの戦争の法則か ら初めて導き出したビジネスの戦略思想です。
「勝ち方には一定のルールがある、その基本的思想をランチェスター法則から学び取れ」 が先生の一貫した主張でした。
そして先生は、ランチェスター法則をすべての戦略哲学の中核に据え、複眼的で弁証法的 な発想と、知的な論理の展開法を重視し、今日のランチェスター販売戦略の全体系を築き あげました。
私(福永雅文)は本文を執筆するに当たって先生の先駆的業績に敬意を払い、ここに衷心 より感謝の意を表明します。
お問い合わせや、ご相談があれば、お気軽にメールください。福永本人が回答します。
→info@sengoku.biz
さらにランチェスター戦略の理解を深めたい方
→福永雅文の著作
→公開講座
福永に相談したい方
→当社のコンサルティング・研修メニュー
ランチェスター戦略を自社用にカスタマイズして取り入れ、業績を向上させたい方
→当社のコンサルティング・研修メニュー