事業とは何か。戦略とは何か。市場シェアとは何か。
そして、営業とは何か。
ランチェスター戦略の専門家として長年コンサルティングを行ってきた福永雅文が、その本質に迫り、格言として整理しました。
迷ったら原理原則に立ち返れと申します。
戦略づくりに取り組むなら、業績をさらに向上させる打ち手をお求めなら、「ランチェスター戦略の格言」をひも解いてみてはいかがでしょうか。
何かのヒントが得られるかもしれません。
・何のために私たちは仕事をするのか?
・何のために企業は競争するのか?
・なぜ、企業はナンバーワンにならなければならないのか?
顧客や社会に役に立つから企業は売上や利益が得られる。
競争とは、その役立ち度合いを切磋琢磨する向上戦だ。
つまり、売上高は役立ち高であり、利益は役立ち料である。
顧客が一番満足するものが選ばれる。
顧客にとって一番しか選ばれない。
この一番を一番たくさん集めたものがナンバーワンである。
ナンバーワンとは顧客に最も役立つ企業。
それを通じて社会に貢献する企業。
営業パーソンをはじめ働く人々は、
顧客にとって一番なものを普及させる、いわば伝道師。
競争に哲学をもち
働く人々の仕事観が確立され
理念・戦略・戦術が共通言語として共有された組織を
福永は「ミッショナリー・カンパニー」と呼ぶ。
企業は事業を通じて顧客に役立つから存在できる。
顧客に役立つことで社会に貢献している。
事業とは社会のなかでの役割分担である。
社会に貢献するからこそ、企業はその存在が許されているのだ。
福永が数年来、お手伝いしている東京の美容室での話。
以下、2011年3月11日の東日本大震災の二日後に届いた
メールを引用(カッコ内は福永が加筆)
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うちの美容師で、
いまだ家が流されたか、家族が全員無事かも解らないのに
笑顔でお客様を担当しているものがいます。
その彼が昨日(被災一日後の土曜日)の終礼で
「地震の話題ばかりだと暗くなるから
お客様からその話が出なければ違う話をして元気にしてあげよう」
と他のスタッフに話していました。
今、営業が困難な美容室もいっぱいあると思います。
こんなとき、自分たちは何をするべきか?
私たちはまず目の前のお客様に
元気になって頂く仕事をしなければならないのではないでしょうか?
「ガスが出なくてシャンプーが出来なかった」というお客様が昨日見えました。
「今日、美容室がやってて良かった」と喜んでいただきました。
今、私たちの使命感が試されているような気がします。
営業が出来るところは営業が出来ない所の分まで社会に貢献しましょう。
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身内の安否さえ、わからないとき
笑顔でお客様を元気にしようと仕事をしている若者がいる。
緊急事態に直面したとき、
「企業が社会的な存在である」ことの本質が問われる。
そもそも
顧客満足を得る活動を行うのは従業員である。
その従業員が不満だらけだと顧客満足が得られるはずがない。
しかし
従業員の甘やかしていると競争に勝てず
顧客満足は得られず、企業はもたない。
従業員満足を得るために給料や休暇ばかり増やしていては、
企業はもたない。
それに
顧客満足を得るために赤字で販売したり
過剰サービスばかりしていると
従業員は働きがいを感じないし、企業はもたない。
また
目の前の企業収益のみを重視しすぎると
顧客満足も従業員満足も疎かになる。
このように
顧客満足と社員満足(従業員満足)と企業満足(収益)は
トレードオフ(一方を追求すると他方を犠牲にせざるをえない)
になりがちなもの。
これが、顧客満足が単なるお題目になってしまう背景だ。
顧客満足と社員満足(従業員満足)と企業満足(収益)とは
相互に矛盾なく一体化させなければならない。
そう簡単に解くことはできない方程式だ。
だが、これを解いたときに顧客満足への歯車は回転する。
「顧客を囲い込む」という言葉をよく聞くが
もののたとえとしても、適切とは思えない。
虫取り網でチョウチョを捕まえるように
顧客を捕えて逃さないなんてことが、できるはずがない。
自分が顧客になってみれば、当たり前のことだ。
企業は花になって、美しく咲き、
甘い蜜を出し続けることだ。
そうすればチョウチョさんたる顧客が、
顧客のタイミングで、ときどき蜜を吸いにやってきてくださる。
顧客は柵をつくって囲い込むことはできない。
柵ではなく、旗を立てることを考えるべきだ。
その旗の魅力のもと、集ってくださった顧客とつながる。
それも、ゆるやかに。
あくまでも顧客のタイミングで、ゆるやかなつながりを。
— この格言は牟田学著「社長業」に発表されていることをもとにしている
事業のタイプ区分は規模、業種、業態など様ざまあるが
事業・営業の戦略策定上、必ず押さえなければならないのが
見込事業か、受注事業かの区分である。
見込事業とは、あらかじめ見込客を想定し
商品をつくり、または仕入れ、販売する事業である。
受注事業とは、注文により商品やサービスを提供する事業。
見込事業は主に完成品で、消費財である場合が多い。
受注事業は主に部品で、産業財である場合が多い。
部品であってもカスタマイズしない標準規格品は見込事業。
完成品であっても特注でカスタマイズするものは受注事業。
いわゆる下請けは受注事業そのもの。
たとえば、出版や書店は見込事業である。
あらかじめ見込客(読者)を想定し、出版し、販売するので。
一方、印刷や書籍の執筆やデザインは受注事業である。
出版社からの注文により作るので。
また、建売住宅やマンション分譲は見込事業。
一方、注文住宅や土木建築は受注事業。
このように業種・業態が同じであっても
事業のやり方で見込事業と受注事業に区分できる。
そして、見込・受注それぞれ
事業の盛衰の勘どころが異なり、善し悪しがあるので
繁栄の方針が根本的に異なることを知らなければならない。
直間比率というと税制上の直接税・間接税の比率や
企業会計上の直接費と間接費の比率などを指すが
「直接販売と間接販売の比率」も忘れてはならない。
多くの企業は
・直接、消費者やユーザーに販売
・消費者やユーザーとの間に間接販売会社(卸商社、販社など)が介在
この二通りの販売経路が併存している。
そして直接販売と間接販売の双方には善し悪しがある。
・好況期、市場の成長期は間接販売
・不況期、市場の衰退期は直接販売
・強者(市場1位)は間接販売
・弱者(1位以外)は直接販売
・売り切り品(廉価で商品説明があまり求められないもの)は間接販売
・説明品(高価で説明が必要でカスタマイズするもの)は直接販売
が、それぞれ向いている。
要するに
売りやすいモノ・トキは皆が売ってくれる間接販売がよく
売りにくいモノ・トキは自ら売り切る力を持たなければならない。
弱者が衰退傾向の市場下で間接販売中心では成り立ちにくい。
さて、
自社の割合はどうなっているのか。
それはあるべき姿となっているのか。
商品によって売りやすい、売りにくい状況が違うので
直接、間接の両方の販売経路をもち、その比率を常に意識し
あるべき姿に調整していく必要がある。
業界にもよるが
直間比50:50が目安になる。
弱者なら60:40のように直の割合が多くなるようにする。
事業とは
「売り先」「売りもの」「売り方」の組み合わせである。
多くの製造業者は
「売りもの」づくりには熱心だが
「売り先」と「売り方」への関心が薄い。
「売りもの」づくりに熱心というが
「機能・品質と価格のバランス」に熱心なのであって
需要者の得られるメリットや使用価値への関心は充分ではない。
供給者は「売りもの」をつくることが目的だが、
需要者が「売り物」を購入することは手段であることを忘れてはならない。
「売り先」とは市場であり、
顧客層であり、個々の顧客であり、そのニーズである。
「売り方」とは販売チャネルであり、
営業方法であり、コミュニケーションのノウハウである。
「売り先」「売りもの」「売り方」を組み合わせて
収益構造を構築することをビジネスモデルという。
多くの会社が
顧客満足の追求、顧客第一主義の
理念を掲げている。
そのことは、まことに正しいが
では、その実現のために何をやっているのか、
と問われると、心もとない。
顧客の満足を得るためには
顧客を知り、顧客の顕在しているニーズのみならず
潜在ニーズまでを把握する必要がある。
潜在ニーズを把握して
重要かつ緊急に叶えたいと
顧客自身に自覚してもらわなければならない。
信頼関係なくして、とてもできることではない。
信頼関係を築くためには
コミュニケーションが不可欠である。
接近戦とは顧客との信頼関係を築くための
コミュニケーション活動である。
つまり
接近戦とは企業理念を実務化することである。
・昔は通用したが、今は通用しない
・他社では通用したが、自社では通用しない
というものは原理原則ではない。
いつ、いかなる時も、いかなる場合にも通用するのが原理原則。
原理原則とは偉大なる常識である。
ピタゴラスの定理のように、知っていようが知るまいが、必ずそうなる。
これを知って戦うものと知らずして戦うものの勝率は自ずから異なる。
ランチェスター戦略は「戦略定石」といわれる。
定石とは囲碁の打ち方から来た言葉だが
物事を行うとき、一般に最善とされる方法や手順のこと。
まさに、原理原則である。
戦いは大きいものが勝つのではなく、強いものが勝つ。
しかも、全体的な強さではなく、
戦っている個々の局面において強いものが勝つ。
つまり
「競合局面における敵と味方の力関係で勝敗が決まる」
力関係の強弱は
ランチェスターの法則が示す通り
「質的経営資源 × 量的経営資源」
であり、敵を相対的に上回れば勝てるということだ。
絶対的な強さではない。
「戦捷の要は、有形無形の各種要素を総合して
敵に勝る威力を要点に集中発揮せしむるにあり」
と、作戦要務令(戦前の陸軍将校のテキスト)に書かれている。
「局所優勢主義」という。
これをビジネスに置き換えると
・勝てそうな事業領域を定め
・そこに敵を相対的に上回る質的、量的経営資源を投入
すれば勝てる。
では、この勝ち負けは誰が判定するのか。
それは顧客である。あるいはその集合体である市場である。
ゆえに、敵に勝っても顧客・市場に支持されなければ
どの企業も負けとなる。
相対的な強さのみならず、絶対的な強さも必要であることは
いうまでもない。
顧客・市場の判定結果は「市場シェア」で示される。
市場シェアこそ、企業の強さを示す指標値である。
「戦略」とは目標達成のためのシナリオと資源の最適配分
「戦術」とは戦略の実行手段
「戦略」とは持続的な繁栄を目指す「売れる仕組み」
「戦術」とは短期的な「売れる仕掛け」
「戦略」は意思決定の領域
「戦術」は意志伝達の領域、行動の領域
では、何を意志決定するのか?
・なぜ、何のためにやるのか
・いつ
・どこの地域の
・誰の、どのようなニーズに
・何を
・どのような販売経路、販売手法で売るのか
これらを決めること。
すなわち、事業の生存領域を定めること。
定めた領域に集中し、他と差別化し、ナンバーワンになる。
(目標とはナンバーワン)
そのためのシナリオと資源配分が戦略。
戦術を伴わない戦略は絵に描いた餅だが
戦略の失敗は戦術では取り返せない。
・第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦の場合)
<攻撃力=武器効率×兵力数>
・第二法則(確率戦、広域戦、遠隔戦の場合)
<攻撃力=武器効率×兵力数の2乗>
上記ランチェスターの法則を企業の競争力に応用すると
・武器効率は「質的経営資源」
・兵力数は「量的経営資源」
である。
大まかに捉えると
・武器効率は「商品力」
・兵力数は「営業力」
といってもよろしい。
マッカーシーの4Pに当てはめるなら
Product(製品)、Price(価格)は「商品力」に該当し
Place(流通・地域)、Promotion(営業・販促)は
「営業力」に該当する。
企業の総合的な競争は第二法則の適用下である。
従って、営業力が相乗効果をあげて2乗倍する。
たとえば
ホンダやソニーといった商品力に優れた会社よりも
トヨタやパナソニックといった営業力に優れた会社が
業界のリーディング・カンパニーであるのは
営業力が2乗倍する競争原理が働いているからだ。
差別化し商品力を高めてもミートされてしまえば
競争優位性を持続することは困難だ。
販売チャネルの系列化、強大な販売網の構築
圧倒的なマンパワー、広告の累積効果などで
営業力を高めることが
総合的な競争の勝敗の決め手となる。
営業力で劣るが商品力に優れた企業(たとえばホンダやソニー)は
特定の部分的な市場を狙うことで、競争を第一法則的な局地戦とし
営業力と商品力を集中して勝機を見出している。
戦略は仮説と予測に基づくものである。
仮説と予測の精度が高ければ実効性が高く
低ければ実効性は低い。
情報不足で精度が低いからといって
戦略なしには戦えない。
経験上、
仮説精度は50%以上あれば、何とか戦略は立てられる。
50%精度とは顧客需要を年間1億円と仮説を立てたとき
少なくとも5千万円以上はあり、
多くても1億5千万円の範囲に収まるという意味として使っている。
粗くても、仮説なしで戦うよりは、よほどよい。
ただし、粗いままでよいわけはない。
精度は上げていかなければならない。
日々の営業活動は仮説検証活動だ。
仮説検証を意識した営業活動を続けていけば
経験上、一年後には、その精度は75%以上にまで高まる。
75%精度とは1億円の仮説が
7千5百万円から1億2千5百万円の間に収まるという意味だ。
この精度があれば、おおよそ問題ない。
また、需要予測は予測であり、上ブレ、下ブレはつきものだ。
期間を決めて見直す。
商談期間にもよるが、一般に四半期単位でよろしい。
そして訪問回数などを修正する。
こうして、仮説と予測の精度を上げていけば
戦略の実効性は高まる。
市場の中で各社は戦略を駆使し、様ざまな活動を行う。
顧客の意向も前と同じということではなく、変化する。
自社と競合はそれぞれ顧客に働きかけ、
顧客は自社と競合へそれぞれ反応する。
それに対して自社と競合は反応し、さらに働きかける・・・
つまり市場のなかで顧客と自社と競合は
お互いに働きかけ、影響を及ぼし合い、状態を変えていく。
戦略とは相互作用である。
戦略を策定し実施を始めると
市場の状態は時々刻々と変化する。
ときにダイナミックに躍動する。
その状況の変化をいち早く察知し
適宜的確な打ち手を繰り出していかなければならない。
戦略とは静的なものではなく、動的なものである。
企業の業績は利益で評価される。
ただし、四半期単位で決算する上場企業は
短期的な利益を偏重し過ぎる傾向がある。
成熟した市場、デフレ、為替の変動と
売上が伸びにくい競争環境では特に
短期的な利益を確保するために
人員を削減し、投資が抑制されがちだ。
減収でも増益させる手立てである。
しかし、これを続けていくと
「縮小均衡」となり、やがては衰退していく。
利益を増やす方法は
第一に売上増である。
第二にコスト減である。
この優先順位を間違えてはならない。
売上を増やすと
単位当たりの製造コストが下がるので
最もコストダウンできる。
米国ボストン・コンサルティング・グループが開発した
経験曲線効果(エクスペリエンス・カーブ)理論では
製品の累積生産量が2倍になると
単位当たりのコストは20~30%低減する、という。
売上なき利益は
その場しのぎの奇策だ。
たゆまないコスト削減努力は必要だが
利益は売上増で増やすのが本筋だ。
売上は企業の極めて重要な指標だが
売上が増えていればよいとは限らない。
もちろん、利益を度外視した売上至上主義は論外だ。
ここで言いたいのは
適正な利益を上げながら、売上が増えていたとしても
よい状態とはいえない場合もあることである。
というのは
市場が成長・拡大している時期は
売上も粗利も増えるのが当たり前だからだ。
市場の成長・拡大期は
市場の成長スピードよりも自社の売上拡大スピードが
遅ければ、売上・粗利が増えていても、
市場シェアが下がっていることを自覚しなければならない。
成長・拡大期はやがて成熟期となる。
この、成熟期に突入する時点での
各社の市場シェアと、その順位は、そのまま変動しない場合が多い。
やがて、勝ち組・負け組に二極化し
市場が衰退期に入るころには独り勝ちとなることも多い。
つまり、
市場の成長・拡大期の間に
その市場競争の勝敗はおおかた、決定づけられると考えるべきだ。
従って、
市場の成長・拡大期は
少なくとも、市場の成長スピードを
自社の売上成長スピードが上回り、
市場シェアと、その順位を少しでも上げておくべきだ。
売上・粗利が増えているからといって安心してはいられない。
この時期はスピード勝負、体力勝負だ。
営業利益を少々減らしても、先行投資をして
売上拡大スピードが市場成長スピードを上回らなければならない。
わが国は人口減である。
ただ、このことだけを知っていても役に立たない。
人口の中身を細分化して捉えればヒントは湧いてくる。
たとえば、
人口は減っているが世帯数は増えている。
単身世帯(一人暮らし)が増えていることに他ならない。
1558万世帯、全世帯の3割を超えた(2010年)。
少子化といわれるが、大学生は増えている。
289万人、前年より4万人増えている(2010年)。
学生・20代やお年寄りの一人暮らしばかりではない。
30代・40代の単身世帯が増えていることに注目すると
・普及品の2倍以上の高級家電がよく売れている。
パナソニックのナイトカラーシリーズは前年比2倍の売れ行き(2011年)。
・分譲マンションはさっぱり売れていないが
60平米未満の物件は東京で前年比18%増(2010年)。
高級家電もコンパクトマンションも
都市部で増えている30~40代の単身世帯が買っているのだ。
不況、デフレ、人口減と嘆く前に
情報を細分化して捉えてみよう。
どんな時代でも売れているものは売れている。
高いものでも売れている。
自社の売上が減ったと嘆く前に
商品別、客層別、販路別、地域別などに
売上構成を細分化して捉えてみよう。
突破口が見出せるのではないか。
2005年から15年の10年間で
我が国の人口は234万人が減少すると予測している。
率にして2%減だ。
10年間で2%なので、
ビジネス的には大騒ぎするほど減るわけではない。
横バイといっても差支えはない。
しかし、細分化して捉えるとビジネスへの影響は大きい。
地域別に捉えると、たとえば、高知県は
79.6万人が74.2万人となり、5.4万人減(7%減)となる。
年代別に捉えると、
14歳以下は1,759万人が1,484万人となり、275万人減(16%減)
15~64歳は8,442万人が7,681万人となり、761万人減(9%減)
65歳以上は2,576万人が3,378万人となり、802万人減(31%増)となる。
これを称して「少子高齢化」と一般に呼ばれている。
確かに子供の数は減り、65歳以上は増えるのだが
そもそも子供の数の減少と、65歳以上の増加は別問題で
ワンセットで語る意味はあまりないのでは。
それよりも
ビジネスでも社会的にも最も影響が大きいのは
15~64歳の人口が761万人も減ることである。
この年代を生産年齢人口という。
仕事をしているという意味で。
確かに生産もしているが、消費もしている。
消費者の巨大な塊であり、「消費年齢人口」でもある。
住宅も、自動車も、スーツも、子供の教育費も
もちろん、納税や年金の掛け金も、生産年齢人口が担っている。
生産年齢人口の推移は国内小売販売額と比例している。
95年をピークに生産年齢人口が減少しはじめたことと
国内小売販売額の減少は同期している。
人口減、少子高齢化といった
はやり言葉を鵜呑みにして
わが社の売上減を嘆いていても仕方がない。
細分化して、実数値でつかんだ情報だけが
戦略策定に役立つ。
卸売り業者は、売れるものを売る存在なので
弱者メーカーは卸頼りの営業戦略では
いつまでたっても弱者のまま。
1 川下作戦(消費者・ユーザーに接する現場をまわる)
2 強者と差別化した盲点的な販路開拓
3 直販
4 一対一に強い営業パーソン育成
などの「接近戦」で弱者は戦わなければならない。
特に不況期は直販比率を高めるべきである。
池とは市場。
魚とは自社の売上、すなわち市場シェア。
小さな会社は、小さな市場で大きなシェアを目指そう。
大きな市場は魅力的に見えるが、大きな会社がひしめいている。
小さな会社がそんな激戦区で勝ちぬけるのか。
それよりも小さな市場を目指そう。
大きな会社はそのスケールゆえに、小さな市場は重視しないもの。
そこに小さな会社の生存領域がある。
小さな市場でも一番大きな市場シェアを確保すれば
ランチェスター戦略ではそれを「強者」と呼ぶ。
「大きな魚」の地位は安定し、収益性は高まる。
雑魚(ざこ)とは小魚のこと。
雑魚は磯辺にいれば、大きなものが来ないので生存できるが
沖に出ると鯨などの大きなものに食われてしまう。
鯨のような大きなものは磯に入ると腹がつかえてしまうで
沖で生存すべき。
生き物にはそれぞれにふさわしい生存領域がある。
自然界の摂理である。
企業もまた、各企業にふさわしい生存領域がある。
雑魚(小企業)は
磯辺のような小さな市場で大きなシェアをとることが基本戦略だ。
(広く薄くではなく、狭く濃ゆく)
雑魚(小企業)は
不特定多数を狙うのではなく、特定少数を狙うべきだ。
雑魚(小企業)は
客数を増やすよりも、客単価を上げるべきだ。
雑魚(小企業)は
大量販売品ではなく、手間のかかる個別対応品を売るべきだ。
要するに
雑魚(小企業)は
鯨が座礁(スケール・デメリット)しそうな商売をやることだ。
雑魚には雑魚の生き方がある。
小企業は規模が小さいから負けているのではなく
雑魚の生き方を知らないから負けているのだ。
集中戦略とは
特定の顧客層・商品・地域・販路などに
自社の経営資源を集中する戦略と一般的にいわれる。
自社の経営資源の配分の問題として取り扱われている。
そのことは正しいが、充分とはいえない。
集中しても、競合他社よりも量的優位でなければ
勝てるとは限らないからだ。
ランチェスター戦略の一点集中主義とは
競合よりも量的な優位性を築くために
自社の経営資源を集中する戦略である。
集中すると決めたセグメント
(特定の顧客層・商品・地域・販路など)へは
どのライバルにも優る量の経営資源を投入しなければならない。
ただし、量的に優位であっても
質的な経営資源が劣っているならば、勝利はおぼつかない。
質的な経営資源の優位とは差別化戦略である。
差別化戦略とは
競合他社とは違ったことをやる戦略といわれる。
そのことは正しいが、ランチェスター戦略では
ランチェスター法則の
武器性能(兵士の腕前、士気も含める)を
敵よりも上回るようにする
ことから差別化戦略を導きだしているので
差別化の本質は
競合よりも質的な優位性を築くことにある。
奇をてらうことも、ときとして有効な戦術とはなるが
本質ではない。
質的な優位というと
性能・品質など技術的なことを思い浮かべるが
供給側の論理で、これを捉えてはならない。
需要側(顧客、消費者、ユーザー)が
主観的に感じる価値が高いものが質的に優れたものだ。
高品質、高機能、新技術は
顧客にその価値を認められて、はじめて有効となる。
しかも、それは論理ではなく顧客の主観である。
一方、技術的には同等であっても
手軽さ(早い、安い、近い、ワンストップショッピング)や
密着性(個別対応、一を聞いて十を知る対応)で
優位であれば、顧客は主観的に高い価値を感じる。
あくまでも顧客の主観である。
地域、販路、客層、特定の顧客内、商品群
など競合局面ごとに
自社が一位であれば強者の戦略で
二位以下であれば弱者の戦略で
戦うのが原則である。
だが、自社が一位なのか二位なのか
よくわからない、あるいは微妙という場合は
弱者の戦略で戦うべきである。
なぜなら、第一に迷うくらいなので
たとえ一位であっても二位以下と大きな差はない。
強者の戦略をとれるほど、強くはないからだ。
第二に強者にも先手必勝の誘導戦という戦い方もある。
先に仕掛けることは差別化である。
つまり、強者は弱者の戦略をとっても成り立つ。
しかし、弱者が強者の戦略ととることは成り立たない。
強者の基本戦略はミート戦略(同質化、模倣)であるからだ。
弱者なのに強者のマネをしていては勝ちようがない。
迷ったら弱者の戦略で戦うこと。
・当たり前のことを、徹底して、継続してやり抜くことが結果として
圧倒的な、絶対的な差となる(上甲晃 松下政経塾初代塾頭)
・誰もがやっていることを当たり前でないレベルでやる
(高野登 リッツカールトン元日本支社長)
・普通のことを普通にやる。コツコツやっていくのが近道
(落合博満 前中日ドラゴンズ監督)
清掃、あいさつ、顧客への定期訪問など
凡事も徹底すれば、それは立派な差別化戦略だ。
凡事を徹底すれば社員の「気づき、気配り、気働き」が高まり
「仕事観」が確立し、「愛他精神」が涵養される。
その結果、
顧客へのサービス価値が高まり、
社員間の信頼関係、連帯意識が高まり、チーム一丸力が増す。
差別化というと、大向(おおむ)こうを唸(うな)らせるアイディアを
考えたくなるが、凡事を徹底せずして、企画、アイディア、手法
に走っても持続的な繁栄は困難だ。
凡事徹底は企業の基礎、基盤である。
大赤字を出した大企業の社長はこういう。
「数を求めて収益性を落とした」と。
・売上や市場シェアを求め過ぎて、安売りをしてしまった
・価格競争が激しくて、赤字でも売ってしまった
・売上拡大を見込んで投資をしたが、回収できるほど売れなかった
という趣旨だ。
「売上・シェアではなく利益を重視すべき」
という考え方の背景となるが、果たしてそうだろうか。
数を求めて収益性を落としたと云っている企業の商品の
市場シェアを調べると、ほとんどの場合は10%割れしている。
10%を超えている場合もたまにあるが、
トップシェアの会社との差が圧倒的についている。
ランチェスター戦略でいうところの「弱者」だ。
しかも、市場に影響を及ぼせないレベルなので
「弱者のなかの弱者」だ。
企業規模が大きくても「弱者のなかの弱者」が
総合的な物量的な「強者の戦略」で戦って、勝てる道理はない。
したがって
「数を求めて収益性を落とした」とのコメントは
福永には
「弱者なのに強者の戦略で戦ったので収益を落とした」
としか、聞こえない。
大企業であっても、弱者であれば、
差別化し、接近戦を行い、集中し、
部分的なナンバーワンを目指す
「弱者の戦略」で戦わなければならない。
大きくて成長性の高い市場で
皆がよく知っている華やかな流行り品を取り扱い
手間のかからないスマートな売り方で営業をしたい。
と、多くの人は考える。
したがって
市場が魅力的であればあるほど、競争は激化する。
強者はそれでよい。
しかし、規模に劣る弱者が、それで勝てるか。
弱者は小さな市場で
地味だが一定の支持があり、必要とされ
手間がかかり面倒な売り方を
しなければならない品物を扱うべきだ。
多くの人が嫌がる、見向きもしないビジネスは
参入者が少ないので、競争はゆるやかだ。
そこに徹し、極めれば、独壇場だ。
より多くの顧客の支持を得るために
努力をするべきではあるが経営資源の乏しい弱者、あるいは小さな企業が
多くの支持を得ようとすると
売り物や売り方が総花的となりがちだ。
特徴が薄まってしまい、
結局、誰からも支持されないものになってしまう。
弱者は万人受けを狙う必要はない。
いや、狙ってはならない。
一部の強い支持があれば成り立つのが
弱者の強みなのだ。
差別化とは他より良くて違うことである。
ただし、この両立は簡単ではない。
どの会社も、他よりも良い「売りもの」を
他よりも良い「売り方」で提供しようと努力している。
何が他よりよいのか、追求していくと
どの会社が取り組んでも、似たようなものになりがちだ。
他とは違う「売りもの」を
他とは違う「売り方」で提供しようとすると、
必ずしも「売り先」にとって良い
との支持が得られるとは限らない。
往々にして、ピントはずれなものとなる。
つまり
良さを追求すると違いが見いだせなくなりがちで、
違いを追求すると良さが見いだせなくなりがちとなる。
このように
「良さ」と「違い」を両立することは難しい。
この難しいことを実現することが差別化だ。
市場シェア(市場占有率)を無視ないし軽視する会社が多いが
自社の「お客様になりうる人々」にどれだけ支持されているのか、
そのことに関心がないと言っているようなものだ。
「お客様になりうる人々」とは市場。
そのなかで同業者のお客様の割合が各社のシェア。
市場も同業者も知らずして、どう戦うというのか。
市場シェアというと同業者との奪い合いという側面が強調されるが
決めるのはお客様であって、お客様は自分にとって一番
・好きなもの
・よいもの
・役立つもの
を選ぶ。
各社がどれだけの支持を集めているのかということだ。
市場シェアとは、お客様支持率だ。
「市場シェアよりも私情シェア」という意見がある。
同業者との奪い合いではなく
顧客の心(私情)の奪い合いですよという。
一理あるが
「私情シェア」が集合されて「お客様支持率」となり
その結果が市場シェアである。
市場シェアはどうでもよろしいということではない。
時計がないから時刻がわからないと言っているようなもの
シェアがわからないのは
時計がないから時刻がわからないと言っているようなものだ。
時計がなくても
太陽の角度や、お腹のすき具合で、おおよその時間はわかる。
昔の人は猫の瞳孔の開き具合によって時刻を知ったという。
必要に迫られれば、誰だって工夫して何とか掴もうとするものだ。
必要性を感じないから、わからないのではないか。
顧客内シェアなら
顧客の需要金額がわかれば自社のシェアは出る。
顧客の売上と、売上に対するその品目の必要度合いから推計できる。
地域内シェアなら
地域内の需要は統計資料で当てはめられる。
統計資料がなくても
同業各社の規模や事業構成や営業パーソン数から推計できる。
はじめは粗くてもかまわない。
まずは、仮説をもつことから始めよう。
仮説があれば、日々の営業活動が検証活動となり
仮説の精度は高まる。
マインドシェアとは知名度のこと。
消費者の心(マインド)に占める企業や商品のシェアだ。
たとえばスポーツ飲料といえばと問われて、第一に思い浮かぶブランドは何か。
その割合をマインドシェアという。
マインドシェアは市場シェアと相関する。
だが、必ずしも一致するわけではない。
流通・販売力の影響も大きいからだ。
たとえばスポーツ飲料のマインドシェアは
1位 ポカリスエット(大塚製薬)
2位 アクエリアス(コカコーラ) だが、
市場シェアの順位は逆転する。
コカコーラ社の流通・販売力が強大だからだ。
マインドシェアが高い割に市場シェアが低いとは
流通・販売力が弱いということであるが
一般原則として
今後、市場シェアが上がる可能性を示唆する。
マインドシェアが低い割に市場シェアが高いとは
流通・販売力が強いということであるが
一般原則として
今後、市場シェアが下がる可能性を示唆する。
つまり、マインドシェアは市場シェアの先行指標である。
市場シェアは、100%独占しないほうがよい。
ランチェスター戦略では
73.9%(≒75%)を市場シェアの上限目標値とし、
もうそれ以上とらないほうがよいとしている。
なぜか。
上限目標値を超えて独占的、無競争的になると
(1)成長性、(2)収益性、(3)安全性
が損なわれてくるからだ。
(1)成長性
競争なくして成長なし。
競争があるから企業は努力する。
新製品の開発、新しい販売促進のやり方、
ライバルを質的・量的に上回る営業活動…
その努力の結果、需要は活性化し、市場は拡大する。
競争がなければ市場は縮小してしまう。
(2)収益性
市場シェアが10%を超えると
シェアが上がれば上がるほど収益性は高まる。
正の相関関係にある。「規模の経済」という。
しかし、
シェアが高まりすぎると収益性が損なわれるようになる。
・地理的、規模的、与信的に採算の合わない
顧客にまで販売することになる
・アンチ派を取り込む努力は採算が合わない
・適正規模を超えると管理コストが増える(規模の不経済)
・ロビー費用、世論対策費などが増える
(独り勝ちを社会は好ましいと思わない)
(3)安全性
一社独占的市場、一社独占的顧客は新規参入の狙い目である。
市場や顧客は選択肢を求めているし、
ライバルが一社なので差別化しやすいからだ。
これを「一騎討ち戦」という。
一社からしか仕入れられないものは、仕入れる側にとってはリスク。
代替品を求める。
独占的となると驕りが出てくるのが世の常。
独占の座にアグラをかいて横柄な営業活動になる恐れがある。
営業活動も「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を心得るべし。
独占の座にアグラをかいてイノベーションを怠りがち。
弱者は強者のスケールをデメリット化するビジネスモデルを準備するもの。
「驕る平家は久しからず、盛者必衰の理」を心得るべし。
つまり、独占とは安全ではない。
以上が独占はしないほうがよい三つの理由だ。
ライバルは居てくれたほうがよい。
ライバルは需要を活性化し自らを鍛えてくれる有難い存在でもある。
でも、ライバルが強すぎるのは困りもの。
万一、2位・3位連合を組むなどライバルが束になって
かかってきても余裕で返り討ち出来る差は3倍だ。
四分の三を占めれば、残りは四分の一でその差が3倍となる。
四分の三を占めるのが理想的である。
この数値が73.9%上限目標値である。
過半数をとるか否かは、多数決では極めて重要だが
市場シェアでは、あまり意味がない。
占有率を51%とっても、二社間競争なら
ライバルが49%確保している。
51%と49%は、シェア競争上は誤差の範囲だ。
競争は激化し、収益性は高まらず、地位も不安定だ。
二社間の一騎討ち戦では
四分の三を占めなければ安定しない。
四分の三を占めれば、残りは四分の一でその差が3倍となる。
この数値が73.9%上限目標値だ。
ただし、多くの競争は三社以上の競争だ。
その場合は、過半数を占めなくともダントツの1位になれる。
ランチェスター戦略では41.7%(≒40%)を
市場シェアの安定目標値とし、首位独走の条件としている。
・73.9% 上限目標値
・41.7% 安定目標値
・26.1% 下限目標値
この3つの市場シェアの目標値は
クープマンモデル(ランチェスター戦略方程式)から
故田岡信夫先生、斧田大公望先生が数学的に導き出したものである。
多くの企業で判断基準にされてきたのは
科学的な裏付けがあるとともに、実感のある数値だからである。
三社以上の競争で市場シェア40%を確保すれば
多くの場合一位で、かつ二位を引き離すダントツだ。
(福永調べでは七割強の割合でダントツとなる)
その地位は安定し、収益性は高まる。
占有率の目標を40%に設定する企業が多いゆえんである。
市場シェアが一位であれば強者、
一位でなければ弱者と定義し
強者は強者の戦略で、弱者は弱者の戦略で戦う。
これがランチェスター戦略の一丁目一番地である。
ただし、これには但し書きがつく。
第一に、市場シェアは競合局面ごとに判断すること。
全体で一位であっても、
製品別、地域別、販路別、顧客層別、顧客別にみて、
一位でなければ、その局面では弱者の戦略をとるべきだ。
第二に、一位であっても市場シェア26.1%(≒25%)を
下回る場合は、原則として強者の戦略はとれないこと。
なぜなら、一位が25%に満たない場合、
多くの場合が分散型競争パターンとなる。
数%の差で複数社が拮抗する状況だ。
市場の四分の一の支持を得ていない上に
ライバルとの差があまりない状況で
強者の戦略はとれない。
26.1%(≒25%)を下限目標値と呼んでいるが
強者の下限という意味である。
25%を超えると、一位になるケースが多い。
(福永調べでは八割の割合で1位となる)
一位たるもの、せめて25%をとらなければならない。
【解説】
ランチェスター戦略では
強者の最低条件26.1%(≒25%)に到るまでの
マイルストーンとして
19.3% 上位目標値
10.9% 影響目標値
6.8% 存在目標値
2.8% 拠点目標値
弱者の4つの目標値を付け加えている。
ただし、
市場全体を平均的にボトムアップするのは戦略ではない。
市場を細分化して、細分化した一つのセグメントに集中して
25%(≒1位強者)を早期に獲得することが戦略だ。
細分化は
・地域
・販路
・客層
・特定の顧客内
・商品群
などの基準で行い、
勝ちやすいセグメントを狙う。
逆にいうなら
市場は占有率25%確保できるまで細分化すべきだ。
一つでもよいから何かで勝たなければならない。
弱者の四つの目標値
19.3% 上位目標値
10.9% 影響目標値
6.8% 存在目標値
2.8% 拠点目標値
のうち、
10.9%(≒10%)は占有率と利益性を考える上で
ターニング・ポイントになる。
福永の調べでは
市場シェア10%未満の事業は利益性との相関関係は見られない。
しかし、占有率10%を超えた以降は
占有率が上がれば上がるほど、事業の利益性が高まる。
多くの新製品や新拠点や新規顧客開拓が、
当面のシェア目標を10%とするのは
第一に、黒字化のターニング・ポイントであるからである。
第二に、知名度のターニング・ポイントであるからである。
市場シェア10.9%を影響目標値といい、
黒字化の目安である。
このことは顧客内シェアにおいても当てはまる。
営業活動時間をコスト換算すると
顧客内シェア10%未満は赤字であることが多い。
顧客内シェア10%未満の顧客はその時点で判断すると
自社の足を引っ張っている顧客ということになる。
だから取引をやめろということではなく
未だ、先行投資期間の顧客であることを認識し
早期に10%を確保する戦略シナリオを描くことが肝要だ。
10%を超えると、顧客は自社を重要な仕入先の一社として認識する。
顧客のなかで有名となり、影響力のある存在となる。
そのシナリオが描けないとするなら撤退も考えなければならない。
取引する以上は最低でも10%を目標としなければならない。
10%までは投資期間だ。
ランチェスター戦略ではカバー率を算出する際、
原則として顧客内シェア5%未満はカウントしない。
それは7つのシンボル目標数値の一つ
6.7%=存在目標値
を下回っているからだ。
顧客に当社の存在が認められるか否か、
その境目が6.7%だ。
存在感がなければカバーしているとはいえない。
この6.7を丸めて5%を基準値にしている。
顧客内シェアを5%以上確保して、
はじめて存在感が認められる。
新規開拓は顧客内シェア5%以上を確保して完了する。
ただし、顧客内シェア5%では未だ赤字である。
取引する以上は顧客内シェア10%以上を目指さなければならない。
地域内シェアのゴールはナンバーワンである。
ナンバーワンとは二社間競争の場合は2位に3倍差、
三社以上の競争であれば2位にルート3倍差(約1.7倍差)
をつけた1位である。
それをシェアに当てはめると
二社間であれば四分の三の75%。
三社以上であれば40%。
住宅業界のように参入者が多く分散していれば25%。
分散市場では25%未満でもナンバーワンになることはある。
ただし、強者の戦略をとるには不充分なシェアだ。
分散市場でも
25%超かつ2位にルート3倍差をつけることをゴールとする。
ゴールに到達したら
・同地域に他商材を販売する または
・他地域に同商材を販売する
ことに取組もう。
商圏、テリトリーの地域特性を知ることは
地域戦略上、欠かせない。
地域特性を知る上で第一に理解しておくべきことは「川」だ。
我が国は島国であるとともに山国だ。
国土の66%が山林である。
山林は雨や雪を貯え、湧水や地下水となり、やがて沢となり川となる。
川は途方もない時間をかけて山すそを削り谷をつくり盆地をひらく。
川は削った土砂とともになおも下り、河口付近で平野を広げる。
太古、大陸から農業が伝わり、人々は盆地に定住するようになる。
飛鳥・奈良・京都と古代、わが国の文明は盆地から始まった。
河口付近の平野は川の氾濫が激しく古代人の手には負えなかったのだ。
戦国時代の末期に到って、土木技術が向上し平野が都市化していく。
江戸(東京)・大阪・仙台・広島は、このとき開かれた。
盆地も平野も川によって作られた。
そして、川は盆地と平野を結んだ。
川上の盆地と川下の平野の物資は川によって運ばれた。
川は近代以前の物流の大動脈であったのだ。
川を知れば地域と地域の結びつきがわかる。
川の流れを理解しなければ地域の攻略法は策定できない。
川は近代以前の物流の大動脈であり
地域と地域の結びつきの理解に欠かせない。
同時に、川は地域と地域を分断する要素でもある。
川は橋や渡し船がなければ越えられない。
現代でも、いたるところに橋がかかっているわけではなく
川を渡るということは遠まわりをするということであり
そこで商圏は分断される。
近代以前は防衛・治安維持のため、橋の数は意図的に少ない。
関所を設け、川を国境(藩境)とする場合も多かった。
この境が現代の県境・市境に到る。
群馬県の前橋市と高崎市は合併すれば
政令指定都市を目指せる規模なのに、一向にその話が進まないのは
両市の県庁をめぐる歴史的な対立があるから
とよくいわれるが
利根川という大河の両岸に両市が位置することに
つきるのではないか。
地域に根ざしたビジネスでは地域戦略上、
地域を町丁目単位で細分化し、重点地域を定めるが
川の手前と対岸は細分化する基準となる。
川は縦で結び、横で分ける地域戦略上の重要要素だ。
営業担当者は一日の勤務時間のなかで
何割程度、顧客と接触をしているのか。
福永の調べでは
業種・業態にもよるが、およそ2割強である。
社内時間が5割、移動時間が2割強といったところだ。
少ない人数で広域をカバーしていると
移動時間は3割を超える。5割を超えることもある。
こうなると、もはやドライバーか配送員だ。
営業担当者一人当たりのテリトリーを小さく設定すれば
移動時間は減る。
福永がお手伝いしている
住宅リフォーム業の某社では
営業担当者の主たるテリトリーを
わずか千数百世帯に絞った。
社内時間も意図して減らした結果
顧客と接触している時間は4割にも達した。
他社の二倍近い時間だ。
一人で二人分の商談をしているともいえる。
その結果、何が起こったのか。
売上はもちろん、粗利率も大幅に上がった。
なぜか。
地域を絞り、重点化することで
呼ばれたら、直ちに駆けつけるスピード営業を実現。
物件に先発して取り組むことで相見積もりとなるケースが減り
受注率と粗利率が同時に改善されたのだ。
重点地域内のカバー率(工事実績客)が向上してくると
いつも、近所で工事をやっている工務店とイメージされる。
安心感、知名度が高まり、
リフォームしたくなったら、第一に声掛けする存在となるのだ。
営業担当者は見込客がいれば、どこまででも
追いかけていきたくなるものなので
リーダーは営業担当者に
テリトリーを明確に指示しなければならない。
営業担当者の仕事は顧客を開拓し、
受注し売上・利益をつくることだが、
そのことは顧客との情報のやりとりによってなされる。
商品のこと、売り方、使い方の提案はもちろん
顧客の顧客、顧客の競合の動きなど
顧客に役立つ情報を提供せずして訪問面談しても、
お願いして安く売ることにしかならない。
顧客に役立つ情報をもたらすには
顧客の顧客に訪問する(川下作戦)など
日々の情報収集活動が不可欠だ。
末端を知らない営業担当者のいうことなど
顧客はまともに聞かない。
顧客に有益な情報を提供すれば
顧客との信頼関係は築け、顧客も自らのために
自社の情報を営業担当者に提供するようになる。
この顧客情報は明日の売上の糧となる。
情報こそが営業担当者の武器だが
それは日々の営業活動そのもので培われるものだ。
つまり、
売りながら調べ、調べながら売るのが
営業担当者の仕事である。
軍事法則であるランチェスターの法則は
営業担当者の攻撃力に応用できる。
・第一法則
攻撃力=武器効率×兵力数
↓
営業担当者の攻撃力=活動の質×活動の量
・第二法則
攻撃力=武器効率×兵力数の2乗
↓
営業チームの攻撃力=活動の質×活動の量の2乗
ただし、この法則は頭数の問題ではない。
活動が個々バラバラならば足し算でしかない。
一人でできることを三人でやれば生産性は三分の一。
活動量が2乗倍するチームを作り上げなければ成り立たない。
・第一法則(一騎討ち戦、局地戦、接近戦の場合)
<攻撃力=武器効率×兵力数>
上記のランチェスター第一法則を
顧客一軒ごとへの
営業担当者一人の営業力に応用すると
<営業力=コミュニケーションの質×量>
と応用できる。
ライバルよりも質の高いコミュニケーションを
ライバルよりも多く行えば勝てるということだ。
たとえば
ライバルが挨拶しかしていない顧客へ
お役立ち情報を提供すれば
質的に上回ることになる。
ライバルが盆と暮れにしか訪問していない顧客へ
毎月訪問すれば、量的には6倍となる。
質はアイディアの領域だ。
マンパワーが乏しくても工夫の余地はある。
量はマンパワーが多いほうが全体では圧倒的に有利になる。
しかし、個々の顧客へのコミュニケーションの量は
対象を絞り込めば、マンパワーが少なくても相対的に多くできる。
顧客を狙い撃つ意味はそこにある。
狙った顧客についてはライバルに対して
コミュニケーションの量で遅れをとってはならない。
顧客数を増やすこと、すなわち
新規顧客開拓は極めて重要な営業活動である。
カバー率を高める新規顧客開拓は
成長市場では売上に直結するといってよい。
特にルートセールスの場合は
取引が始まると継続的な発注が見込めるので
カバー率は重要な指標となる。
ところが、
成熟市場、特に案件セールスの場合は
顧客数を増やすことが、必ずしも売上増に結び付かない。
限られたマンパワーで多くの顧客に対応しようとすると
一軒当たりへのコミュニケーション量が薄まってしまうからだ。
成熟市場はゼロサム競争(誰かが浮かべば誰かが沈む)でもあり
コミュニケーション量が劣っていれば受注できない。
成長期の案件セールスは
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」ともいえるが
成熟期の案件セールスはライバルに
コミュニケーション量が劣っていれば受注できない。
つまり「数を撃つから当たらない」と考えるべきだ。
顧客数を減らすことで売上を上げた企業は多い。
つまり、成熟市場、特に案件セールスの場合は
戦略なしに顧客数を増やすと
売上が減る危険性があるということだ。
そうならないために
顧客の格付けを行い、格や営業のプロセスに応じて
適切にコミュニケーション量を配分すること。
顧客の狙い撃ちをすることが大切となる。
その上でマンパワーに応じて顧客数を増やせばよい。
「早いものが勝つ」これは常識だ。
ファースト・ムーバーズ・アドバンテージという言葉もある。
最初に動く者が優位となる意味。
新たな取り組みには慎重であらねばならない。
だが、あれこれ逡巡しているうちにライバルに先発されたり
商機を逃してしまっては意味がない。
先発は前例のないチャレンジなので当然、トライアル&エラーになる。
試して修正していけばよいのだ。
事前準備には時間をかけ過ぎるくらいかけるが
事後総括がおざなりになる傾向の組織が多い。
早く小さな失敗をして、反省して、修正していくことが大切である。
営業活動も同じである。
案件を先発して取り組めば顧客の要求仕様を当社に有利に進められる。
後追いは価格でさすことくらいしか手はない。
商談の間隔も短いほうがよい。
クイックレスポンスで対応し
熱い間に一気呵成に進めていく。
朝のスタート時間もメールの返信も早いほうがよい。
スピードは差別化だ。
機動戦とは軍事用語である。
迅速な意思決定と、兵の移動・集中により、
敵に対して優位にたち、
戦闘の主導権を握る戦法をいう。
つまり、スピードと集中の効用を説いている。
私たちのビジネスもまた、
機動力が勝敗の行方を握っている。
時々刻々と変化する情勢に
タイムリーかつスピーディに対応しなければならない。
上層部にお伺いを立てている暇はない。
営業現場に、意思決定権を持たせなければならない。
そのためには
営業現場が会社全体の戦略と、
個々の案件の戦略的位置付けや意味を理解し、
全体戦略と一貫性をもって意思決定し、行動しなければならない。
また、意思決定に必要な条件や情報は何かを知り
意思決定の精度を上げていくことも、求められる。
戦略的思考を教育していく意味は、そこにある。
「秘すれば花」とは世阿弥の芸術論だが
戦略もまた、秘すれば花である。
特に弱者は自らの戦略意図は秘匿すべきだ。
たちまち強者にミートされるからだ。
戦略意図の秘匿とは
1)情報管理を厳密に行う
2)事を起こすときには一挙に行う
3)ライバルに自らの戦略意図を悟られない工夫をする
である。
自社のやり方がワンパターンになっていると
ライバルにこちらの手の打ち方を読まれてしまう。
正攻法と奇襲・ゲリラ戦法を巧みに組み合わせる。
ライバルにこちらの手の内を悟られないような
かく乱する動きも、ときには有効だ。
逆に、
ライバルの戦略意図を察知することは極めて大切だ。
日々の営業活動は顧客、ライバル、市場の情報収集活動
でもあると位置付けよう。
営業活動は商品やサービスを説明することだと
思っている人が多いが、
その気がない段階で、売り込んでも嫌われるだけだ。
面談では自社の説明は、ごく簡単に済ませ
顧客を知ることに時間を費やすべきだ。
・顧客ニーズは何か?
・顧客ニーズの優先度は?
・購入意欲はあるか?
・顧客が描く「あるべき姿」とは?
・顧客の需要規模はどのくらいか?
・購入先を変える可能性はあるか?
・購入の意思決定は誰がするのか?
・購入の意思決定はどのようになされるのか?
営業活動は顧客を知ることである。
ただし
顧客との面談は尋問ではないので
こちらの聞きたいことを直接聞けない場合が多い。
そこで重要なことは
あらかじめ仮説をもって面談に臨むことだ。
会話の端々で仮説を検証していく。
日々の面談で仮説の精度を高め
あるべき姿と現実のギャップを埋める必要性を共有し
自社が提供する商品やサービスがそれを埋める
最適なものであることを知ってもらうこと。
これが面談を行う意味だ。
仮説なくして成り立つ話ではない。
営業とは仮説検証である。
新規開拓候補は、その魅力度と容易度で選定する。
強者(1位企業)であれば、
需要規模、成長性などの魅力度を重視すればよい。
弱者(2位以下の企業)も
魅力度で候補先を上げがちだが、魅力度が高ければ高いほど
強者が重視してくるので、容易度は下がる。
したがって、弱者は容易度を重視すべきだ。
容易度を測る重要な指標は仕入先数である。
営業担当者に新規開拓候補を問うと
仕入先数の多い企業を挙げる人が多い。
仕入先が多いので自社にもチャンスありと。
しかし、成熟市場において
仕入先が3社も4社もある企業が4社目、5社目の仕入れ先を
必要としているだろうか。
むしろ、2社か3社に絞ってスケールメリットを追求しようと
考えているとみるべきだろう。
一方で、仕入先が一社の会社(オンリー客という)は
なかなか、新規開拓候補に挙がらない。
とりつく島がないイメージが営業担当者にあるためだ。
しかし、仕入先が一社という状況は必ずしも健全ではない。
なぜか。
1.競争原理が働きにくくなり、需要者のメリットが下がる
2.情報が偏る
3.非常時に生産ラインが止まるリスクがある
大震災や大洪水で部品や材料の供給が止まった企業が多発し
いま、多くのオンリー客は仕入先の分散化をリスクマネジメント
として取り組んでいる。
つまり、オンリー客は容易度が高い。
仕入先が一社ということはライバルが一社なので
一対一の戦いとなる。
すなわち、一騎討ちだ。
ライバルが複数あると差別化しても封じ込まれ(ミートされ)やすいが
ライバルが一社なら差別化しやすい。
弱者の新規開拓は一騎打ちで戦うべきである。
8.朝の出発時間と営業の業績は比例する
「朝が早い営業担当者はできる」
と昔から云われてきたが、
このことは精神論ではなく、合理的に裏付けられる。
朝の出発が早ければ、第一に訪問件数を増やせる。
一回当たりの商談時間も増やせる。
そうなると当然、一日当たりの総商談時間を増やせる。
商談件数、商談時間と業績は比例するので
朝の出発の早さと業績は比例することになる。
朝が早いと午前中の商談件数、商談時間を増やせる。
午前中の商談は顧客側にも、ほどよい緊張感があり
中身の濃いものになりやすい。
特に朝一番の商談の意味は重大だ。
顧客にとっても重要な商談だから朝一番にアポがとれる。
また、朝一番に訪問してくれたことに
顧客は自らの重要感が満たされ、前向きな商談となる。
以上は定説であり常識といってよい。
ところが、朝の遅い営業組織が未だに多い。なぜか。
1.顧客や仕入れ先との受発注業務を朝、営業担当者がやっている
2.朝から会議をやっている
3.朝、昨日の日報を書いている
1は営業事務担当がやるようにすれば済む。
2は午後以降にし、3は当日やればよい。
単純なことなので、すぐに対応しよう。
まず、現在の平均出発時間を把握すること。
次に、遅い原因を把握し、対策すること。
そのうえで、予定出発時間を設定すること。
そして、毎日、自らが出発時間予実を管理すること。
商談時間は次の式で表わされる。
「総商談時間=一回あたり平均商談時間×商談回数」
商談時間は商談の「質」的な側面を示し
商談回数は商談の「量」的な側面を示す。
なぜ、一回あたりの商談時間が長ければ、
商談の「質」が高いといえるのか?
それは、商談時間の長さは以下の三つの証だからだ。
(1)信頼力
(2)情報力
(3)提案力
(1)信頼力
顧客との信頼関係がなければ、
どんな優れた提案も受け入れられにくい。
顧客との信頼関係づくりは商談の基盤となる。
信頼関係は会社対会社の信頼関係とともに
人間対人間の信頼関係を築いていくことだ。
BtoBビジネスは建前ビジネスだが
本音をどこまで共有できるかが問われる。
リラックスした雑談のなかから、本音の情報も得られる。
ただし、顧客も忙しい。
雑談ばかりしていられない。
忙しい時間を割く価値のある営業活動でなければならない。
(1)は商談時間の長さの前提条件でもある。
(2)(3)が必要条件だ。
(2)情報力
営業パーソンの仕事は今日の売上を得ることとともに
明日の売上の元となる情報を収集してくることだ。
「売りながら調べ、調べながら売れ」だ。
顧客の情報を得るのに最も効果的なことは
顧客に有益な情報を提供することだ。
顧客へ情報提供すれば、商談時間は長くなる。
(3)提案力
「提案なくして商談時間なし」
顧客に有益な提案ができなければ、
顧客はもはや、時間を割いてくれないと思うべきだ。
御用聞き型営業に徹するならば、短時間・高頻度訪問でよい。
ソリューション営業をするなら、(1)(2)(3)が必須だ。
以上、商談時間は商談の「質」的な側面を示す意味を解説したが
重要なことは、ただ長くいればよいということではない。
(2)情報力、(3)提案力なき商談は顧客に迷惑な居座りだ。
(2)(3)が不充分なら、短時間・高頻度訪問の御用聞き型でよい。
長くいることのみを指示していると
暇な顧客(オアシス客や窓際族)の暇つぶし
の相手をすることになったり
過剰なお手伝いサービスをすることになったりする。
従って、第一に重視すべきは訪問回数(「量」的な側面)である。
量が適正になってきたら、第二に
「質」的な側面である商談時間の適正化に取り組もう。
商談回数は商談の「量」的な側面を示し、業積と比例する。
業積向上のため、商談回数の改善は最初に取り組むべき課題である。
ただし、このことは勤務時間を増やすことではない。
限られた勤務時間のなかで、いかに時間の使い方を最適化するか。
第一に、いかに回数を増やすか。
第二に、限られた回数を、いかに最適に配分するか。
第二の最適配分については別項を参照のこと。
ここでは、第一の回数増について解説する。
営業担当者の一日の時間の使い方を調べると
おおよそ、以下の時間配分である。
商談 20%強
社内 50%程度
移動他 20%強
外勤して顧客と商談するのが営業パーソンの仕事だが
一日の半分は内勤しているのが現状。
この割合は、もちろん、業種・業態や営業範囲によって異なる。
少ない人数で全国をカバーしているようなメーカーだと
商談時間が10%を切る営業パーソンがいる。
移動時間が40%を超える営業パーソンもいる。
果たして、これで営業パーソンといえるだろうか。
まずは、現状を把握し、あるべき姿を描き
改善していくべきだ。
目安としては
商談 30%以上
社内 40%未満
移動他 20%程度
を参考にされるとよい。
現在、商談時間比が20%の営業パーソンが30%になれば
攻撃量は1.5倍増する。
そのためには
1)社内時間の短縮化
・受発注
・業務報告
・会議
2)移動時間の短縮化
・営業範囲の重点化
・営業担当を地域制に
・訪問ルート、移動手段の改善。
朝から営業パーソンが受発注や会議や日報などをやっているならば
やり方を変えれば1.5倍増は難しい話ではない。
カバー率(%)=自社取引客数÷未取引先含む全顧客数×100
担当地域に100軒の顧客および顧客となりうる先があるとして
そのうち50軒と取引しているとするなら
50÷100×100=カバー率50%
となる。カバレッジ、取引店率、取扱店率ともいう。
カバー率は客数の広がりを示す指標値で市場占有率と相関する。
カバー率が高まれば市場占有率も高くなるということである。
特に強者(1位企業)にとって重要な判断基準となる。
なぜなら、カバー率が低くても強者になることがときにあるが
客先が偏っている強者であり、不安定であるから。
また、弱者逆転はカバー率の逆転から起こることが多い。
つまり、カバー率は市場シェアの先行指標である。
成長市場では早い者勝ちの陣取り合戦となるので
カバー率アップはそのまま売上増、市場シェア増となる。
カバー率が1位であることは強者の条件。
その目安は60%だ。
というのは
・カバー率60%を超えると強者となる場合が多い。
・カバー率60%を超えると、それ以上のカバー率アップよりも
客内シェアのアップのほうがシェアアップにつながりやすくなる。
すなわち、戦略転換のターニングポイントとなる。
多くの企業は売上の多い順に顧客をABC分析している。
これで訪問計画をつくると
例えば売上1千万円の顧客は同じ訪問量となる。
しかし、現在の売上が同額の1千万円でも
顧客の需要は1億円、3千万円、1千3百万円? と様々なはず。
この需要金額から現在の売上高を引いたものが
拡大販売余地。略して拡販余地である。
もちろん、拡販余地の全額を直ちに確保せよということではなく
拡販余地のなかでも短期拡販余地、中期と区分して
拡販計画を策定して訪問計画に反映させる。
訪問計画は売上と利益増のために策定するのだから
拡販余地を知らずして訪問計画は立てられない。
【解説】
顧客内シェア(%)=自社売上高÷顧客の需要(総仕入高)×100
月間100万円の需要のある顧客(月間総仕入高100万円)があるとして
そのうち50万円を当社が納入しているとするなら
50÷100×100=顧客内シェア50%
となる。インナーシェア、インストアシェアともいう。
売上高を販売数量としてもよい。
顧客内シェアの目標はナンバーワンである。
ナンバーワンになれば、その顧客は自社系列先、自社メイン先といえる。
顧客内での自社の地位は安定する。
顧客内シェアナンバーワンとは
1)単独カテゴリー、または二社間競合なら2位に3倍差の1位
2)複数の製品カテゴリーを扱う場合、または三社以上の競合数なら
2位にルート3倍(約1.7倍)差の1位
二社間競合、単独カテゴリーなら75%(上限目標値)
三社以上の競合なら40%(安定目標値)
が目安となる。
上記の目標値へのマイルストーンとして以下の数値を目安とする。
・5%(存在目標値)取引実態がある顧客と位置付けられる
(5%未満はカバー率を算出する際に省く)
・10%(影響目標値)利益が出始める
(10%未満は先行投資期間)
・25%(下限目標値)競合三社以上なら1位(強者)の最低条件
(25%未満は1位であっても不安定、強者の戦略はとれない)
なお、すべての顧客内シェアを平均的に高めるのは戦略的ではない。
・顧客の魅力度(需要規模、成長性)
・攻略の容易度(現在の顧客内シェア、取り組み易さ)
からターゲット顧客を選定する。
顧客の格付けの方法は様ざまあるが
ルートセールス型の営業部門は
「ランチェスター式ABC分析」を基本とする。
そのやり方は
1)顧客の需要規模でABCを格付け
2)顧客内シェアでabcdを格付け
3)1と2を掛け合わせる
である。
1)ABCは自社売上ではなく
顧客の需要規模(総仕入高)で格付けること。
格販余地を把握することが大切。
はじめは仮説推計値でもかまわない。
2)abcdは自社の客内シェア
・aは自社ナンバーワン先
・bは併売状況の先(ナンバーワン供給者不在)
・cは他社ナンバーワン先
・dは未取引先
3)ABC×abcd=12通りに全ての顧客が格付けされる
●重要なAクラス
・Aaは大口で自社ナンバーワン先
・Abは大口で併売先
・Baは中口で自社ナンバーワン先
●普通のBクラス
Ac、Bb、Ca
●新規開拓候補先
Adと、Bdのうち規模上位、成長性のある先
●重要ではないCクラス
Bc、Cb、Cc
顧客別の営業の基本方針と、適切な商談量を定める指標とする。
ランチェスター式ABC分析は顧客の重要度を格付けする。
最重要顧客はAa。
次はAa候補だが
Aa候補は短期的にはAbのなかから選ばれる。
格上げに取り組む顧客は、原則的に同業他社からシェアを奪うことなので
同業他社よりも、その活動の質も量も大幅に上回らなければならない。
ところが、
格付けをせず、営業担当者まかせにしていると
営業担当者は「行くべき顧客」が明確でないので
「行きやすい顧客」に行ってしまう。
それはBa、Ca。
需要規模は中・小で自社メイン先。
中小系列店の位置づけだ。
系列店なので、何かと用事がある。
顧客も自社を頼りにしているので歓迎される。
中小顧客は一般にノンビリしているし、人間関係もできている。
ビジネス砂漠で営業担当者がほっと一息つける顧客という意味で
福永はオアシス客と呼んでいる。「行きやすい顧客」だ。
一方、Abの下位やAcは
そもそも用事もないし、自社の存在感が顧客内にない。
大口顧客は一般に忙しくピリピリしているし、人間関係もできていない。
拡販余地の大きな顧客こそ「行くべき顧客」だが
格付けをしていなければ、それすら、わからないので
まず、間違いなく行っていない。
それで売上・シェアがあがるはずがない。
これは営業担当者の問題ではない。
営業マネジメントの問題である。
【解説】
ランチェスター式ABC分析により
顧客の戦略的格付けを行い
重要なAクラス(Aa・Ab・Ba)へ
訪問量を増やすことを決めても
どこかを減らさなければ絵にかいた餅となる。
減らすのはCクラス(Bc・Cb・Cc)。
Cクラスは当社の生産性を下げている顧客であり
失っても惜しくない先。
ところが、長年の付き合いや、Aクラス、Bクラスの顧客と
つながりがある場合も多く、引きずっている場合が多い。
Cクラス顧客がA・Bクラス顧客数の合計の
三倍もの軒数があることもしばしば。
そこでCクラスについてさらに細かく格付けを行う。
C-1 定期訪問する(Bクラスよりも少なく、必要最小限)
C-2 定期訪問はしないが用事があれば営業担当者が行く
C-3 注文があっても営業担当者は行かず、配送員が届ける
C-4 注文があっても宅配便で届けるか、取りにきていただく
まずは自社売上で機械的に4区分する。
しかるのち、諸事情を勘案しクラス調整するが
一クラス以上は上げない。きりがなくなるので。
ドラスティックに切り捨てるのではなく
顧客からの注文が徐々に減っていき、自然消滅するように
取り計らう。
Aa率(%)=自社Aa顧客数÷A顧客数×100
大口のAランク顧客が20軒あるとして
そのうち自社がナンバーワン供給者であるAaランク顧客が2軒
あるとするなら
2÷20×100=Aa率10%
となる。顧客が小売店、販売代理店などの「店」であれば
Aa店率と呼ぶ。
Aa率は客内シェアの深まりを示す指標値で
市場シェアと相関する。
Aa率が高ければ市場シェアも高くなるということ。
特に弱者(2位以下の企業)にとって重要な判断基準となる。
なぜなら、兵力(マンパワーなど経営資源)で劣る弱者が
強者並のカバー率を確保することは困難。
重点顧客を狙い撃つのが弱者の生きる道。
その際、大口でナンバーワン顧客をどれだけ確保しているのか
すなわちAa店の割合が勝負のポイントとなる。
また、成熟市場では各社のカバー率は相当高まり
併売率も高まるので、カバー率を高めることよりも
Aa率を高めることの重要性が増す。
新規開拓よりもAaづくりの有効性が高まるということ。
カバー率競争からAa率競争への戦略転換は
カバー率60%が目安となる。
そのタイミングは成長期から成熟期にライフサイクルが
移行する時期と重なる。
構造シェア(%)=(カバー率+Aa率)÷2≒市場シェア(%)
対象件数100軒、Aグループ軒数20軒で
カバー率50%(取引軒数50軒)、
Aa率10%(Aa軒数2軒)とすると
(50+10)÷2=構造シェア30%≒市場シェア30%となる。
カバー率は客数の広がりを示す「質」的な指標値。
Aa率は客内シェアの深まりを示す「量」的な指標値。
それぞれ市場シェアと相関することから
流通段階の理論上のシェア「構造シェア」が導き出された。
市場シェアの流通段階の構造を示すことから、そう名付けられた。
構造シェアは市場シェアと近似することから
シェアアップの戦略シナリオを描くことができる。
たとえば、上記のケースで
市場シェアを5%アップさせて35%にしたい場合
・第一の戦略シナリオ
カバー率10%アップ=新規開拓10軒
・第二の戦略シナリオ
Aa率10%アップ=Aa店2軒増
・第三の戦略シナリオ
カバー率5%アップ=新規開拓5軒
Aa率5%アップ=Aa店1軒増
以上の3つの戦略シナリオの選択肢が得られる。
やりやすいシナリオを選べばよい。
一般に市場シェア=カバー率×既存客の一客あたり平均客内シェア
で示されるが、平均を上げるという発想は戦略ではない。
結果を分析すれば、そうなるだけのことで、先行指標にはならない。
構造シェアを指標とする。