2020年12月21日
日本の経営の歴史のなかで弱者逆転は何度も起きているが、何が最大の大逆転だっただろうか。アサヒビールがキリンビールを逆転したことを第一に挙げる人が多いのではないか。
その大逆転を営業本部長として指揮したのが故中條高徳氏である。後に副社長やアサヒビール飲料会長を歴任された。当時の同社の社長は住友銀行出身者が務めていたので、生え抜きとしては最高の地位にいた方である。
筆者が常務理事を務めるNPOランチェスター協会で顧問をお願いしていたご縁があり、何度か薫陶を受ける機会に恵まれた。その中條氏から「滅びる民族の3原則」という考えを教わった。
イギリスの歴史学者アーノルド・J・トインビーが提唱したとされる3原則とは次の通りである。
1.理想を失った民族は滅びる
2.すべての価値を物やお金に置き換え、心の価値を見失った民族は滅びる
3.自国の歴史を忘れた民族は滅びる
実はトインビーの原典をあたっても、どこに書かれているのか、見当たらない。ご存知の方がいらしたらご教授願いたい。出典が不確かではあるが、腑に落ちる名言として、トインビーの3原則は広く知られている。もしかしたら、トインビーの本に触発された中條氏がトインビーの名を借りて提唱されたのかもしれない。お亡くなりになっているので確かめようがない。
この3原則は社会に警鐘を鳴らしているが、筆者は会社にもそのまま、あてはまると思い、よく引用させていただいている。
1.理想を失った会社は滅びる
2.すべての価値を物やお金に置き換え、心の価値を見失った会社は滅びる
3.自社の歴史を忘れた会社は滅びる
「理想」と「心の価値」とは自社の「理念」をはじめとする「経営思想」である。自社の存在意義や使命は何か。そして社員は「何のために働く」のか。
「歴史」とは自社の創業から今日までの「歴史」と、事業や商品の「物語」である。
「理想」と「心の価値」を確立し、「歴史」を大切にしている会社。それらを社員が共有し、顧客や社会に発信し、共感を得ている会社を筆者はミッショナリー・カンパニーと呼んでいる。ミッショナリー・カンパニーは滅びない。なぜなら、存在意義があるから、顧客や社会が滅ぼさない。