2022年06月20日
筆者が講師を務める塾形式のセミナーに、いま、温泉旅館の後継者とフレンチレストランを運営する会社の幹部が来ている。
温泉旅館はその温泉地でいちばんの老舗で客単価は一泊二食2万5千円程度の中の上クラス。フレンチレストランはレストランウェディングが主力事業で通常のレストランとしても営業している。ディナー単価7千円程度で、安さがウリの店ではない。
二社とも料理がウリとのことだったので、どのように優れているのかを聞いた。
1 地元の新鮮食材を使っている(〇〇牛など)
2 他店よりも腕の良い料理人が調理している
3 温かいものを温かいまま、客の食事ペースに合わせて提供している
4 何でも美味い
経営努力をしているのだろうが、中高級店なら他店も同じような努力をしているはず。何が美味いか、どのように美味いか、なぜ美味いかを極めて、伝えていかなければ、せっかくの努力が伝わらない。伝わらないとないのと同じである。
ランチェスター戦略では、自社が弱者か強者かを見極め、弱者なら弱者の戦略をとることを基本としている。
この温泉旅館は地域いちばんの老舗である。だが、弱者・強者は伝統や格式で判断しない。市場シェアである。同温泉地のなかで最大の売上の旅館が強者である。したがって自社は弱者である。レストランもレストランウェディングの件数は同地域内一位ではない。
こちらも弱者である。
弱者の基本戦略は差別化である。両社が挙げた4項目は大切なことではあるが、具体性に乏しく差別化の訴求力は弱い。
そこで、筆者は両社に対して「価値のピラミッド」という手法で考えるように助言した。
弱者は価格ではなく価値で勝負すべきである。価値とは顧客の歓びである。価値をどのように高めて、顧客に歓んでもらうか。筆者は「価値のピラミッド」という手法を使っている。ピラミッドを大きくしていくかを考えるものだ。
ピラミッドの土台には「基本価値」を置く。旅館なら安眠できる、中高級レストランなら特別の日の会食ができるといったことである。
ピラミッドの上部には「付加価値」を置く。商品・サービスの付帯的・補助的な価値である。付加価値は2つに区分する。一つが「機能的付加価値」である。旅館なら部屋つきの露天風呂や充実した朝食メニューといったことである。レストランならわざわざ食べにいく価値のある看板メニューや他店にないサービスである。独自または優位性のある物理的・機能的な価値である。
二つ目が「情緒的付加価値」である。旅館もレストランも伝統・格式や、話題の店といったイメージである。独自または優位性のある感覚的・情緒的な価値である。
基本価値は当たり前のことで、これがなければどんなに付加価値が高くても成り立たない。付加価値は無くても不満に感じないが、あれば満足を感じること。基本価値の欠如は不満に、付加価値の充実は満足につながる。
基本価値での差はつけにくいが凡事徹底し、充実させていけば長期的には圧倒的・絶対的な価値になる。付加価値は差をつけやすいので短期的な効果がでる。ただし、マネされやすいので常に新たな付加価値を付け加えることが求められる。基本価値はピラミッドの土台を少しずつ拡げるイメージ。付加価値はピラミッドの頂点を一気に高めるイメージ。この二方向で差別化に取り組む。
つまり、両社が挙げた4項目は基本価値ということだ。これは大切なので、凡事徹底は続けていく。特に温泉旅館は続けてきたから代を重ねて老舗になった。続けてきたことは素晴らしい。
だが、同時に二つの付加価値の向上にも取り組むべきである。両社にはこの塾形式のセミナーで考えていき、最終発表会で発表するように助言した。
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