仕事で成果を持続的に上げるために一番大切なことは何でしょうか? 気合や対人関係能力や体力でしょうか。もちろん、必要です。ですが、いくら努力をしても、どのように努力するのかを間違えると成果は限定的です。
どのように努力するか。目標を達成するために、いつ、どの地域の、どの顧客層に、どんな商品を売るのかのシナリオを描き、ヒト、モノ、カネ、そして時間などの資源を最適に配分する。そうした考えが戦略です。あなたの尊い努力を実り多いものにするもの、それが戦略です。ビジネスで一番大切なことは戦略なのです。
その一番大切な戦略は誰が考えるのか。社長や上司が考え、若手はそれに従って行動するだけの存在でしょうか。筆者はそうは思いません。もちろん、会社全体や自分の所属する部門それぞれの戦略を理解共有する必要があります。それらを学んだうえで、自分自身の戦略を考え、実行し、PDCA を回しながら成果を上げていくのが仕事なのです。
本書は特に若手の営業員のあなたのために営業で一番大切な戦略を解説します。会社や部門での理解のみならず自身の営業戦略を策定する能力を本書で身につけていただくことを目的にします。
コンサルタントである筆者は長年、企業の事業や営業の戦略づくりをお手伝いしてきましたが、それに加えて若手のビジネスパーソンや起業希望者や中小企業の後継者に対しても戦略づくりを指南してきました。本書の冒頭に、一人の若手営業員がどのような戦略をたてて実行し、いかなる成果を上げたのかを紹介しましょう。
株式会社キャリアコンサルティングが主宰する若手社会人の教育機関「しがく」の講座「福永ラン
チェスター戦略塾」で一年間学んだ中田貴仁さんからの報告です。
「弱者と強者は会社の規模ではなく市場シェアで判定する。強者は1 位のみで、2 位以下は弱者である。弱者は『弱者の戦略』で戦うのが原則」このことを学び、私はすぐに調べました。私が勤務する証券会社は業界最大手です。証券業界全体では強者です。しかし、私が所属するX支店のテリトリ
ーではどうか。X県の有価証券の預かり資産の最大手は地銀のX銀行でした。自社は2 位。その差は2倍以上もありました。自社は弱者だったのです。
それまでの私は、証券会社は証券会社と競争をしていて銀行をライバルとは見ていませんでした。銀行が窓口販売で金融商品を販売していることは知っていましたが、融資先が付き合い程度に買っていると見ていました。市場全体では強者でも自分のテリトリーのX県では弱者であることがわかった私は弱者の「差別化戦略」に取り組むことにします。目をつけたのは「NISA を使った福利厚生制度」です。資産活用商品のNISA やIDeCo は近年伸びてきています。
X県ではまだ実績がほとんどありませんでした。従業員個人の資産形成を会社が支援する仕組みです。会社が奨励金を出すことや天引きのシステムをつくるなど会社の負担が多少あること、そもそも預金ではなく低リスクといえども投資であることが普及を妨げています。一方で従業員満足度を高め離職率を下げる福利厚生効果や節税対策にもなるメリットもあります。利益が出ていて従業員満足度を重視している社員950 名の中堅企業に狙いを絞り提案したところ、「NISA を使った福利厚生制度」が採用されました。従業員の4割近い360 名の方が加入されました。これは当時の自社の全国最多記録となりました!この中堅企業さんとは取引はありましたが、部分的でした。今回の「NISAを使った福利厚生制度」がきっかけで節税対策や事業承継対策のご相談をいただく関係になりました。
今回、ライバルとして銀行のことを調べたところ、金融機関は預金、貸出、為替の3大業務では利益が出にくくなっており、手数料収入を拡大していくことが急務であることがわかりました。証券や保険の金融商品を扱う窓口販売はますます力を入れていくでしょう。地域の証券会社にとって手ごわいライバルです。さらに企業買収や事業再生にも取り組んでおり、コンサルティング機能が充実していくと思われます。
私たち証券業界ではかつての主力事業である株式の売買仲介業はネット証券に奪われています。株の売り買いでは利益は出にくくなっています。顧客の資産運用、決算対策、事業承継や相続対策の金融面でのコンサルティングに主軸が移りつつあります。「福永ランチェスター戦略塾」で一年間学んだ私は、自社の戦略を理解し、営業員として自分自身の戦略づくりをすることができました。さらに、自社の顧客企業の戦略についても理解が深まりました。コンサルティングをするとはどういうことか、そのヒントも得られました。
中田さんの報告で、ビジネスパーソン一人一人が営業戦略を策定することの意味は伝わったと思います。次はあなたの番です。本書は全6 章で構成されています。第1章はランチェスター戦略の原点である戦闘の勝ち負けを方程式で示し法則化したランチェスター法則を紹介し、そこからどのように経営や営業の戦略に応用されたのかを解説します。
第2章から第4 章までが経営戦略としてのランチェスター戦略の基本理論です。弱者と強者の戦略や市場シェア理論などです。第1章から第4 章まで、理論は必要最低限にとどめ、わかりやすい事例を数多く紹介しました。楽しく読んで学んでいただきます。第2章から第4章まで、それぞれ章末には、戦略づくりの取り組み方と営業員の仕事について解説しました。学んだことをご自身の会社や、自分のこととして考えて戦略を策定していただきます。第5 章の営業戦略は営業活動の実践に直結する内容です。実践し、成果を上げていただきます。
第6章は、若手のビジネスパーソンや起業希望者や中小企業の後継者に対しても戦略づくりを指南してきた筆者が、令和時代のいま、若手営業員に伝えたいことを書きました。先ほど報告してもらった中田さんと共に学んでいる人たちの事例も紹介します。本書は若手営業員が、営業の仕事で一番大切な戦略を学び、自社と自分自身の戦略を考え、実践するための本です。仕事で人生をつくり、未来を切り拓いていこうとする、あなたのために書きました。お役に立てば幸いです。
2023年11月
ランチェスター戦略コンサルタント
福永雅文
第1章 勝ち負けの原理原則「ランチェスター法則」
1. いまなぜ、ランチェスター戦略なのか
2. ランチェスター法則
3. 小が大に勝つ3 原則
第2章 弱者の差別化戦略と強者のミート戦略
1. 弱者の戦略、強者の戦略
2. 弱者の戦略事例
3. 差別化戦略の取り組み方と営業員の仕事
第3章 弱者と強者の5大戦法
1. 弱者の一点集中主義と強者の総合主義
2. 弱者の陽動戦と強者の誘導戦
3. 局地戦、接近戦、一騎討ち戦
4. 5大戦法の取り組み方と営業員の仕事
第4章 市場シェアの科学
1. 目的・目標・戦略・戦術
2. 敵を滅ぼさないほうがよい
──74%上限目標値
3. なぜ、トヨタは40%にこだわるのか
──42%安定目標値
4. なぜ、出光は合併したのか
──26%下限目標値
5. 3:1の法則と4つの競争パターン
6. 「足下の敵」攻撃の原則
7. ナンバー1主義
8. シェア分析の取り組み方と営業員の仕事
第5章 ランチェスター営業戦略
1. 営業員攻撃力の法則、攻撃量の法則
2. 人材の質
3. 戦略の質
4. 顧客の戦略的格付け法と定期訪問
5. 活動の量
──残業を減らしながら業績を上げる方法
6. 営業活動の質
──商談プロセス管理で受注率を上げる
7. 新規開拓4 回訪問の原則
8. 営業チーム攻撃力の法則
第6章 20代営業員 自分の戦略
1. 若手営業員からのランチェスター戦略の実践報告
2. 競争を嫌う20代のビジネスパーソンたち
3. 競争に哲学をもとう
4. 令和時代を生き残る営業員
5. 15秒自己プレゼン
おわりに
参考文献と学習の手引き