ランチェスター戦略は大きな会社の本社の戦略スタッフが全社レベルの経営計画や販売戦略を立案する際にも使われますが、最もよく使われるのは営業現場単位での戦略づくりです。
世にある様ざまな戦略理論や経営手法は戦略は本社が考え、現場は実行するのみというものが多いようです。
これに対して、ランチェスターは顧客最前線の営業現場にこそ戦略が必要であるという考えです。
というのも弱者・強者、シェア順位は商品・地域・販路・顧客によって入れ替わります。
会社が大きいからといって強者とは限りません。
逆に小さいからといって必ずしも弱者ではありません。
営業現場単位で市場地位を見極め、地位に応じた戦略で戦うべきです。
同じ会社でも営業現場単位で戦略を切り替える必要があります。
70年代以降、多くの企業がランチェスター戦略を営業現場単位で取組んできました。
ランチェスター戦略が「ブランチ(支社・支店)の戦略」「汗の匂いのする戦略」ともいわれるゆえんです。
ランチェスター戦略の実務体系はメーカーや卸・販売会社の営業現場の「地域戦略→流通・シェアUP戦略→営業戦略」が最も多く取り組まれてきました。
小売など地域に根ざした店舗型サービス業は「地域戦略」中心に。
事業開発・商品開発部門では「市場参入戦略」に取り組んできました。
以下に各実務体系をダイジェストで解説しましょう。
3以降で解説する地域戦略、流通・シェアUP戦略、営業戦略は既存事業を深耕していく実務体系で、成熟市場が前提となっています。
しかし、企業には市場導入期、成長期の事業もあります。
導入期・成長期では先発・後発によっても戦略が異なります。
この市場時期別の戦略の体系が市場参入戦略編です。
商品開発、市場開拓、新規事業などの経営レベルの実務です。
福永コメント
地域戦略、流通・シェアUP戦略、営業戦略は営業部門向けのものですが、市場参入戦略は経営者、企画・マーケティング部門向けのものです。
先の長い若い経営者にはぜひ、学んでいただきたいです。
そんな中小企業経営者に読んでいただきたいのは下記です。
私のお手伝い先も含めて45社の事例が出ています。
・ランチェスター戦略「小さなNo.1」企業市場参入戦略編が充実しているのが下記の拙著です。
大きな会社のスタッフ部門の方にお奨め。大企業の中期経営計画づくりをケーススタディしている本です。
・世界一わかりやすいランチェスター戦略の授業 146ページ~
地域戦略は営業地域(メーカー・卸のテリトリー、店舗の商圏)を細分化し、重点化し、シェアナンバーワン地域をつくっていく実務です。
地域全体での市場地位に応じて重点地域の選択基準が異なることが勘所(かんどころ)です。
市場規模、市場シェア、人口、世帯数など、地域を定量的にみるのみならず、地域特性(点・線・面、うちもの・そともの、など)を定性的にとらえる独自のノウハウが充実しています。
ランチェスター戦略の原点は軍事戦略理論。
戦争とは地域の奪い合いです。
この原点との親和性が高く適用事例も多い。
ターゲット地域を決定する “ランチェスターの華”といえる実務です。
福永コメント
地域に根ざしたビジネスなら地図づくりは必須。
ゲーム感覚でビジネスが楽しみます。
私もこれでランチェスター戦略にはまりました。
流通・シェアUP戦略は販売チャネルをとらえて、営業活動でいかにシェアを上げていくのかの実務です。
間接販売(販売会社を通じてユーザー・消費者に販売する)の場合は、代理店・特約店戦略。
間接販売の場合はチャネルとユーザー、直接販売の場合はユーザーの需要規模と顧客内シェアから顧客を戦略的に格付ける「ランチェスター式ABC分析」を行います。
また、カバー率とAa率(大口需要先のなかでの自社メイン先の割合)からシェアUPのシナリオを導く「構造シェア」という概念もあります。
ターゲット顧客を決定する“ランチェスターの要(かなめ)”といえる実務です。
福永コメント
シェア30%を来期35%にしたいとき、あと5%多く働け、といっても達成しませんね。
Aa候補先や新規開拓先を固有名詞であげないと現場で役立つ戦略は作れません。
ランチェスター戦略が構築されて40年以上が過ぎた今日も、多くの営業現場が取り入れているのは、この実務体系があるからに他なりません。
これを実行せずして、ランチェスター戦略を知っているとは言い難いと思います。
営業リーダーが営業チームを、あるいは営業パーソンが自分自身をいかにマネジメントしていくのかの実務です。
スキルやモチベーションなどの戦術レベルよりも、顧客別の営業の方針や商談の頻度などを最適化していく戦略レベルに重点を置いています。
ルートセールス型、案件セールス型、新規開拓など営業方法別の営業マネジメントの勘所(かんどころ)をおさえます。
決めたターゲットをいかに攻略するのか、“ランチェスターの実(み)”といえる実務です。
福永コメント
あなたの会社の営業担当者は、行くべき顧客に行くべき時に、行くべき頻度で訪問していますか?
行きやすいところ(私は「オアシス客」と呼んでいます)ばかりに行っている人が実に多いです。
適正な活動の基準値をつくりプロセスを管理しましょう。①地域戦略、②流通・シェアUP戦略、③営業戦略の実務体系を解説しているのが下記の拙著です。
同書では営業パーソンの時間の使い方を統計分析した結果も示しています。営業部門の方に、この本をお奨めしたい。
・「営業」で勝つ!ランチェスター戦略 111ページ~201ページ
以上、ランチェスター戦略の理論と実務の体系をダイジェストで解説しました。
自社の強み・魅力・個性を棚卸し、競合他社に対して独自性・優位性のレベルにまで磨き上げる(差別化)。
その際、何で勝負をするのかを見極めることが勘所。
事業を成功に導く一番大切なことは何か。それは顧客・見込客の潜在ニーズを知ることでわかる(接近戦)。
そうして決めた一点に集中(一点集中主義)。
それをいかにして顧客・見込客・潜在客に伝えるか(接近戦)。
その結果、ダントツの支持をえて、企業を持続的な繁栄に導く(ナンバーワン主義)。
このシナリオ(ストーリー)を描くことです。
ナンバーワンとは市場シェアがダントツということ。
シェアというと、わからないという方や、軽視する方が多いです。
シェアとは顧客の支持率と考えれば、わかりやすいし、重視しなければならないことは理解いただけるでしょう。
私のコンサルティング経験でも、私たちの調査でも、シェアは企業の利益と相関する(シェアが高ければ利益率が高まる)ことは明らかです。
シェアがわからなければ、わかる方法があります。
詳細に正確にわからなくても、おおよそわかれば、戦略は立ちます。
何とかなります。そして、おおよそわかったシェアを上げながら、情報の精度を上げていく営業の実務指導(売りながら調べ、調べながら売る)が、私がいちばんたくさんやってきた仕事で、好きで得意です。
謝辞
ランチェスター販売戦略は、昭和45年に故田岡信夫先生がランチェスターの戦争の法則から初めて導き出したビジネスの戦略思想です。
「勝ち方には一定のルールがある、その基本的思想をランチェスター法則から学び取れ」が先生の一貫した主張でした。
そして先生は、ランチェスター法則をすべての戦略哲学の中核に据え、複眼的で弁証法的な発想と、知的な論理の展開法を重視し、今日のランチェスター販売戦略の全体系を築きあげました。
私(福永雅文)は本文を執筆するに当たって先生の先駆的業績に敬意を払い、ここに衷心より感謝の意を表明します。
お問い合わせや、ご相談があれば、お気軽にメールください。福永本人が回答します。
→info@sengoku.biz
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