私の著書「
ビジネス実戦マンガ『ランチェスター戦略』」「
ランチェスター戦略『弱者逆転』の法則」を未読ならこれが一番のお奨め。
そこに戦略はあるか?
あなたの会社は営業戦略をもって営業活動をしているでしょうか?
もちろん、売上や利益の目標はあるでしょう。それが顧客別、月別、商品別、担当者別などに割り振られている営業計画書があると思われます。近くにあれば、ぜひ、手にとってみてください。そこに戦略はあるでしょうか?
筆者は仕事がら、多くの会社の営業計画書を見てきました。ほとんどの会社が前年対比で総額の目標を決めています。そしてそれを実績をもとに割り振っています。多少のメリハリはついてはいるものの、基本的には前年度を踏襲しています。今年はこれくらい売れたから来年はもうちょっと頑張って、これくらいにしたいね……と。
市場の安定成長期なら、そういう計画書でもなんとかなったのかもしれません。ですが、今は需要の多くが縮小傾向です。需要よりも供給が多い過当競争を強いられています。そんなときに戦略なき前年度ベースの営業計画は役に立ちません。だから今、大手が寡占化し弱小の淘汰が進んでしまうのです。
このように指摘すると営業パーソンの商談スキルやモチベーションを上げて頑張ります、という人がいます。スキルやモチベーションは重要ですが、それはあくまで「戦術」です。「戦略」ではありません。
戦略と戦術の違い
戦略とは、目標達成のためのシナリオと資源の最適配分です。何をどのようにやるのかという意志決定の領域です。戦術とは戦略実行の手段です。意志伝達、あるいは行動の領域です。戦略がなくとも目標が達成されることも稀にはあります。ですが、それは偶然です。再現性がありません。
目標は戦略的にたてなければなりません。目標ありきではなく戦略上、ふさわしい目標を掲げるべきです。スキルやモチベーションの高い営業パーソンがいくら優れた戦術を駆使しても、戦略が間違っていては尊い努力も実り多いものにはなりません。もちろん、戦術という実行手段をもたない戦略は絵に描いた餅ですが。
つまり、目標と戦略と戦術は三位一体なのです。どれもなければ成り立たず、相互に作用することで初めて効果が出ます。その要となるのが戦略です。しかし、多くの会社には、営業目標しかありません。そしてスキルやモチベーションを上げて頑張れ! と営業現場にハッパをかけています。戦術強化で目標達成をしようとしています。肝心要の戦略なしに。それでは営業現場は疲弊し、目標も達成できません。
営業戦略づくりに携わる営業マネジャーのために
あなたの会社が営業目標を達成できないとしたら、まず間違いなく戦略がないからです。あったとしても拙いか、実行されなかったかです。もちろん、戦略があり、実行されたとしても必ずしも目標が達成されるとは限りません。しかし、少なくとも検証はできます。どこに課題があるのか、改善方法は……とPDCAサイクルを回していくことで、戦略の有効性は高まります。
本書では企業の営業戦略づくりの方法をわかりやすく解説しました。主たる読者対象は営業部課長、支店長・営業所長ら営業管理者(マネジャー)です。中小企業では社長や営業担当役員にも役立ちます。それに加えて筆者は営業パーソンにも読んでもらいたいと思っています。
なぜなら、営業パーソンも自分の営業目標達成のために自ら営業戦略を策定するべきと考えるからです。地域、販路、顧客、商品などの重点化をはかり、ライバルと差別化し、顧客満足を獲得することで営業目標を達成することは、戦略レベルの行為です。 営業パーソンは上司や本社の戦略に従うだけの戦術係、とは筆者は思いません。いや、そうであっては目標は達成されないし、営業パーソンとしての成長もないのではないでしょうか。
なぜ、今、ランチェスター戦略なのか?
本書は2部構成です。第1部は営業戦略づくりの前提となる戦略の原理原則を理解するパートです。第2部は営業戦略の作り方を実務的に解説するパートです。
第1部では我が国の競争戦略のバイブルともいわれるランチェスター戦略を初心者向けに、わかりやすく解説します。ランチェスター戦略とは故田岡信夫先生(1927‐1984)が1970年代に体系づけたものです。
筆者は故田岡先生の遺志を受け継ぐNPOランチェスター協会で理事・研修部長を務めているランチェスター戦略の専門家ですが、ランチェスター戦略を知らなければ、あなたが営業戦略を立てられないとは申しません。
しかし、戦略とは一体何か、その原理原則を知らずして営業戦略は立てられません。営業戦略を策定しても、その根拠を問われたときに論理的に説明できないからです。ですから、何か一つの理論体系はマスターすべきです。流行りのP.F.ドラッカーでもよいでしょう。競争戦略のM.ポーターや、マーケティングのP.コトラーでもよいでしょう。
数ある理論のなかで筆者がなぜ、ランチェスター戦略をお奨めするのか。その理由は三つ。第一に、わかりやすいこと。これほどシンプルで短時間で誰でも理解できる競争戦略理論を筆者は他には知りません。第1部は早ければ1時間、じっくり読んでも2時間で基本理論を習得できるように書きました。
第二に、実務的で使いやすいこと。営業戦略の実務体系があります。他の多くの理論は経営レベルであるのに対し、ランチェスター戦略は営業部課レベルの実務も指導しています。第2部で解説します。
第三に成果が実証済みであること。多くの企業がこれを自社の戦略に取り入れてきた長い歴史があります。筆者も今、盛んにこれを指導原理にしたコンサルティングや企業内研修を行い、成果を上げてきています。このように営業マネジャー級が戦略の原理原則を理解するのにランチェスター戦略は最も適しているので、お奨めしているのです。自社・ご自身に合うか否かは本書をお読みになり、あなたが判断されればよいでしょう。
第2部は営業戦略の作り方です。営業の方法は①ルートセールス型・既存客セールス、②案件セールス型・新規開拓、と大きく区分されます。ルートセールスとは定期訪問し小口注文をリピート受注してくる営業方法です。既存客が中心となりますが新規開拓もしなければなりません。案件セールスとは住宅や設備機器のようにいつも新しい案件を追いかけていく営業方法です。既存客、新規客の両方への営業です。
ルート、案件の両者について、その戦略、行動計画づくりについて実務的に解説しましたので、ほとんどの企業の営業に対応しています。第2部は故田岡先生の理論に筆者の指導経験を加えてバージョンアップした実務体系です。
また、巻末には特別付録として「シェアと利益の相関関係」について学術的に研究したレポートをつけています。参考になさってください。 読んだ後、あなたが本書を応用して自社の営業戦略づくりに取り組まれ、あなたの会社、そしてあなたの仕事が、より豊かに発展することを祈っています。
2011年1月 福永 雅文
プロローグ
そこに戦略はあるか?
戦略と戦術の違い
営業戦略づくりに携わる営業マネジャーのために
なぜ、今、ランチェスター戦略なのか?
第1部 ランチェスター戦略入門編
第1章 ランチェスター法則
- ランチェスター戦略とは
- 3人の馬場が5人の猪木に勝つ方法 ~ランチェスター第一法則~
- 3人のランボーは5人のターミネーターに勝てるか ~ランチェスター第二法則~
- 小が大に勝つ3原則
- ランチェスター法則をビジネスに応用する
第2章 弱者の戦略、強者の戦略
- 弱者の戦略、強者の戦略
- なぜ、マクドナルドはバーガーキング開店日にメガてりやきを投入したのか? ~強者の戦略事例~
- PI戦争 トヨタ「プリウス」vs.ホンダ「インサイト」 ~強者の戦略事例~
- トリンプは2位です。だから1位とは違うことをします ~弱者の戦略事例~
- 顧客の生ゴミを回収するローカル食品スーパーやまと ~弱者の戦略事例~
- イトーヨーカドーの話題となる値引きの方法 ~弱者の戦略事例~
- 差別化戦略8つの分野と、3大差別化ポイント
- 弱者と強者の5大戦法
第3章 市場シェア理論
- なぜ、B29は戦略爆撃機といわれるのか
- なぜ、敵を滅ぼさないのか? ~73・9%上限目標値~
- なぜ、トヨタは40%奪還にこだわったのか ~41・7%安定目標値~
- 強者の最低条件 〜26・1%下限目標値〜と分散市場での目標値
- 3:1の法則と競争パターンの類型
- 果たしてシェアと利益は相関するか?
- シェアとは何か。どのように調べるのか
第4章 ナンバーワン主義
- ねつ、のど、はなにルルが効く ~「足下の敵」攻撃の原則~
- 日本で2番目に高い山を知っていますか?
- ツナ缶なら何でもシーチキンと呼んでしまいませんか?
- 弱者がナンバーワンになる方法 ~一点集中主義~
第2部 営業戦略編
第1章 3つの戦略課題
- あなたは今、どんな「とき」を戦っているでしょうか?
- 直接販売か間接販売か
- 弱者のナンバーワンづくりは地域から
- 弱者と強者の重点エリア選定基準
第2章 ルートセールス型・既存客営業の戦略づくり
- 拡販余地を把握しているか
- ランチェスター式ABC分析
- 顧客の戦略的格付け
- 行きやすい客にばかり行っていないか
- シェアアップの決め手「構造シェア」
第3章 新規開拓・案件セールス型の営業戦略づくり
- なぜ、新規開拓をしなければならないのか?
- 営業プロセスを「見える化」せよ
- 新規開拓4ステップアプローチ法とターゲティングの原則
- 売り込まないアプローチ
- 潜在ニーズに迫るヒアリング
- プレゼンテーションの中身はFABE(ファブ)
- 案件セールスの受注を増やす方法
- 営業プロセスの定義と進捗率
第4章 成功する営業活動の「量」を知る
- 営業パーソンは一日の半分は会社にいる
- できる人は朝が早く商談件数が多い
エピローグ
何のために私たちは仕事をするのか
ミッショナリー・カンパニー
特別付録「シェアと利益の相関関係」
ランチェスター戦略学会 第二回研究大会(09年11月23日)報告資料ダイジェスト