ランチェスターの法則、書籍「一点突破」の法則のご案内。ランチェスター戦略コンサルタント・福永雅文が、わかりやすく解説します

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経営戦略のバイブル

プロローグ 一点突破せよ!!

弱肉強食の掟に逆らって

 格差社会といわれています。
 ヒルズ族と呼ばれるITベンチャーや投資ファンド関係者は、フェラーリやベントレーなどの高級輸入車はもちろん自家用ジェット機までをも乗り回し、アナウンサーやタレントと の合コンに明け暮れているとの噂あり。話半分としてもバブル時代も真っ青なド派手な生活です。
 その一方で給食費や修学旅行費を行政に支援してもらっている就学援助が2000年代に入って急増しました。東京のある区では2005年度、区内の小中学生の42、1%が就 学援助を受けています。これは噂ではなく現実です。せつないですね。

 ではなぜ、格差は広がるのでしょうか。
 それは、ビジネス・商売の世界が勝ち組と負け組にはっきりと分かれてしまっているからです。たとえば街の電器屋さんは毎年、1000軒ずつ廃業しています。毎年ですよ。
10年で1万軒の電器屋さんが世の中から消えたということです。でも、家電販売の売り場総面積は増え続けています。東京の秋葉原に05年に開店したヨドバシカメラの売り場面積は2万3800平方メートルといいますから百貨店並みの大きさです。つまり多くの街の電器屋さんは大手の家電量販店にお客さんと売上を奪われ廃業に追い込まれているのです。
 これは何も電器屋さんに限ったことではありません。酒屋さんも本屋さんも布団屋さんも……街の○○屋さんといわれる小さな小売店は軒並み苦しい状況にあります。小さな小売店の 集合体である商店街がシャッター街になるわけです。
 お店屋さんだけではありません。企業もそうです。過去最高益を記録する大企業が続出する一方で倒産・廃業する中小零細企業が後を絶ちません。潰れないだけでボーナスもろくに 出せない中小零細企業は数知れず。
 結果として年収格差が広がり、六本木ヒルズと東京の某区のようなことになるのです。

 大手寡占化、弱小の淘汰がドンドン進んでいます。
 残念ながらビジネス・商売の世界は弱肉強食なのです。市場原理とは元来そういうものです。本書はビジネス書ですから、その善し悪しは問いません。私たちが今、戦っているビジ ネス・商売の世界には「弱肉強食の掟」が存在していることを受け入れましょう。
 ただし、掟に従って弱者は泣き寝入りしろ、などとは私は決して申しません。まったくの逆です。やり方次第で戦略次第で弱者逆転は可能です。打つ手は無限にあります。そんな意 図で私は05年5月、前作『ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』を書きました。

 改めまして読者様、こんにちは。
 私は小が大に勝つ「弱者逆転」を使命として我が国の販売戦略のバイブルともいわれるランチェスター戦略を伝道するコンサルタントの福永雅文です(戦国マーケティング株式会社代表、NPOランチェスター協会 理事・研修部長)。はっきりいって私は「判官びいき(弱者を応援する気っ風)」です。「弱肉強食の掟」に対しては「ふざけるな!」という思いがあります。
 でも、それを是正する社会運動をしようというものではありません。掟に逆らって弱者逆転する方法を伝授し、勝ち残ってもらうことを使命としています。強者にギャフンといわせるのです。そして皆で適正に納税をして世の中を良くしてもらいましょうという立場です。
 そんな志が通じたのか、前作は売れ続けています。おかげさまで私は今、ランチェスター戦略コンサルタントとして多忙の日々を送っています。
 その活動は第1にコンサルティング指導業務、第2に企業内研修業務、そして第3に地域の経済団体などでの講演やメールマガジンや依頼原稿の執筆などの戦略の普及啓蒙業務です。3本柱でやっています。
 ランチェスター戦略を学び、自社流に応用して実戦し、勝ち残る企業が増えています。ですが、中小零細企業や商店を取り巻く環境は大手寡占化、弱小の淘汰が進み、大変厳しいも のがあります。
 もう、まったなしです。この一番厳しいところを何とかしたい、との問題意識が本書を書くきっかけです。

 本書は中小零細企業や商店の経営者および起業家を対象に、弱者逆転の戦略を伝授するための本です。

 「弱肉強食の掟」に逆らって勝ち残るためにはどうしたら良いのか、わかりやすく具体的な事例をあげて解説した本です。格差社会に対して「冗談じゃない!リベンジしてやる! 一発逆転だ!!」と思っているあなたのために書きました。

5対3で戦って3が勝つ方法

 あなたの会社や部門には毎期、経営計画があるでしょう。売上・利益の目標と、いつ・誰が実行するのかという計画です。通常は数値中心の経営計画書という書式でまとめられています。ですが、そこに戦略はあるでしょうか。「昨年の年商が9億円だったから今年は10億円を目指してガンバロー!」。その気合は大切ですが、どのようにそれをなすのか、やり方が正しいものでなければ努力は無駄になります。
 そのやり方が戦略です。戦いには原理があり勝ち方には原則があります。そして弱者逆転こそが戦略の醍醐味です。大きいものが勝つのは当たり前。でも戦略を学び、それを実戦す れば小さいものでも勝てるのです。なお本書ではビジネスは戦であるという私の信条から 「実践」という言葉を「実戦」と記しています。ご承知おきください。

 ではどうすれば弱者逆転できるのでしょうか。本質をわかりやすくつかんでいただくために戦争のケースで考えてみましょう。

 5隻の軍艦M軍と3隻の軍艦N軍が戦うとします。艦隊決戦は軍艦の武器の配置から通常、 図解01のように縦列となり敵と併走しながら行なわれます。軍艦や武器の性能や腕前は同じだとした場合、勝つのは数に勝るM軍です。子供でもわかることです。
 それでは、

【Q1】M軍がN軍を全滅させるとき、M軍は何隻残るでしょうか?
【Q2】N軍が勝つには、どうすれば良いでしょうか?

ランチェスター戦略「一点突破」の法則 プロローグ Q1の答えは「ランチェスター第2法則」を知らなければ答えられないでしょう。ですからわからなくて当たり前です。答えは4隻残ります。わずか1隻の犠牲でもって敵3隻を全 滅させることができるのです。数が多いほうが圧倒的に有利なのです(図解02)。
 なぜ、そうなるのか、その根拠は33ページの図解06に示しています。ですが今は見に行かなくて良いでしょう。このまま読み進めてください。

ランチェスター戦略「一点突破」の法則 プロローグ  Q2の答えは次ページの図解03のようになることです。大きな敵とはまともに戦わないこと。戦いの局面を限定してそこに兵力を集中させ敵1隻を全力で狙い撃ちします。こうす れば全体では小であっても、この局面では大となりますから勝てます。そして一つひとつ順番にやっつけていくのです。いずれ敵を全滅させることができます。

 このケーススタディから弱者逆転の原理原則が明らかになります。
 3つの原理原則があるのですが、その前に大前提があります。それは弱者と強者がまともに戦えば必ず強者が勝つということです。「弱肉強食の掟」ですね。戦略なしに戦えば、どんなに努力しても負けます。無駄死です。最もやってはいけない戦い方です。根性論だけでは絶対に戦ってはなりません。

弱者逆転の3原則——局所優勢・各個撃破・武器効率

 弱者逆転の3原則の第一は局所優勢です。
 軍事用語では、数に勝る軍を優勢軍、数に劣る軍を劣勢軍といいます。全体では劣勢であっても敵と競合する局所(局面)において優勢であれば勝てます。戦いの勝敗を決定する要因は競合する局所における敵と味方の力関係です。強ければ勝ちますし弱ければ負けます。
 ですから、全体的な力関係は勝敗に影響は与えますが決定的な要因ではありません。ここで勝つんだと勝負の決勝点を定め、そこに戦力を集中すれば、その局所においては勝てるということです。部分的な勝利を得ることができます。
 次に敵を分断し優先順位をつけて一つひとつ順番にやっつけていきます。敵全体と全面戦争すれば必ず負けます。弱肉強食の掟です。ですから個別に戦うのです。これを各個撃破といいます。これで弱者逆転の2つの原則が導き出されました。
 ケーススタディでは、例題をシンプルにするために、武器の性能や腕前を同じとしましたが、弱者逆転の3つ目の原則はこれを変えることです。武器をピカピカに磨き上げて敵と比べて有利にします。武器の性能を敵に比べて相対的に有利になるようにすること、このことを「武器効率を上げる」と呼んでいます。

ランチェスター戦略「一点突破」の法則 プロローグ   たとえば自軍は1分間に200発弾が出るマシンガンを持っているとします。敵軍は100発です。武器効率は200:100の比率ですから、自軍の武器効率は2。自軍が100発で敵軍が200発なら自軍の武器効率は0・5ですね。

 以上が、軍事戦略上で「弱肉強食の掟」に逆らって弱者逆転する3原則、「局所優勢」「各個撃破」「武器効率」です。

弱者の陥る罠

 弱者逆転の3原則をビジネスに置き換えるとこうなります。「局所優勢」とは経営資源の重点投入であり、「各個撃破」は優先順位付けと敵や市場の狙い撃ちです。ですから「局所優勢」と「各個撃破」とは「選択と集中」であり、一言でいうならば「重点化」です。
 敵に勝る武器を持つ「武器効率」をビジネスに置き換えると「差別化」です。ビジネスにおける質的な要素—商品力・技術力・情報力・営業担当者のスキルなど—がライバル会社に 比べて勝っているのか、負けているのか。どこで勝負するのかということです。
 重点化と差別化がビジネスにおける弱者逆転の原則です。重点化とは重点化しないことを後まわしにすることであり、ときには切り捨てる覚悟も必要です。差別化とは同業他社 のやり方に追随することではなく業界の非常識に挑戦することです。狭いところを鋭い切り口で突き破るイメージです。ですから重点化と差別化とは「一点突破の戦略」なのです。
 では、どのように重点化・差別化していけば良いのでしょうか。具体的な実務論が欲しいところですね。それが、これからあなたに伝授する一点突破「ランチェスター戦略」です。
 本書第1章で、ランチェスター戦略の原点と弱者の基本的な戦い方を解説します。
 第2章・第3章では、弱者逆転を果たすための重点化と差別化の具体的なやり方を、(1)商品、(2)地域、(3)顧客、(4)流通の戦略の4大課題別に事例を交えて解説します。

 以上を読めば、あなたは弱者逆転するための一点突破の戦略を作ることはできるでしょう。
しかし、それを実戦することは躊躇するはず。なぜなら、一点突破の戦略は一時的に売上ダウンの危険性のある『劇薬』だからです。
 おそらくあなたは毎期、売上・利益を拡大させるために新たな商品を投入し、新たな流通網(販売ルート)を築き、新たな地域に進出し、新たな顧客を開拓していることでしょう。
拡大路線です。しかし、一点突破の戦略は商品・地域・顧客・流通を差別化し重点化することです。つまり絞り込むことであり戦線を縮小することです。生産性は高まりますが一時的に売上が下がる可能性はあります。
 たとえば街の酒屋さんは一般に日本酒・焼酎・ビール・ワイン・ウィスキーなどアルコール類を全分野扱っていますが、差別化・重点化するとは取扱い品目を日本酒だけに絞るようなやり方です。ビールやワインを買いに来ていたお客さんを失うことになります。日本酒の売上の伸びが他の減少分を上回らなければ売上が下がってしまいます。
 一点突破と売上・利益の維持拡大を同時に果たそうとするなら強烈な増客・増注を伴う必要があります。日本酒好きのマニアックなお客さんを広域から集客し、通のお客さんの相談に対応し接客して買ってもらわなければなりません。圧倒的な集客力と営業力がないと実現不可能です。簡単ではありませんよ。だから「言うは易し、行なうは難し」となり、戦略は絵に描いたモチといわれるのです。
 これが弱者の陥る罠。この罠によって多くの弱者が逆転できないまま、もがき苦しんでいるのです。

 かくいう私も実はこの罠に陥りそうになりました。

私も一点突破しました

 私は99年にコンサルタントとして起業しました。「小さいがゆえに、または戦略が乏しいがゆえに高い志をもっているにもかかわらず、もがき苦しんでいる企業のなんと多いことか。そんな企業を三度の飯より好きな『戦略』で支援したい。それには96年から取り組んでいるランチェスター戦略がピッタリだ」という思いからです。準備を整えて01年、ランチェスター戦略の指導業務・教育業務を始めました。
 そうしてランチェスター関係の仕事の比率をだんだんと高めていき、その他の仕事の比率を下げていきました。
 でも、そうすると元々とぼしかった我社の売上・利益が減りました。志はあってもキャリアと実績の浅い私に始めからバンバン仕事の依頼がくるはずもありません。私はランチェスターというテーマに重点化することによって並みいるコンサルタントの中で差別化し存在感を築くという中長期のビジョンと目の前の財務状況のジレンマに陥りました。これが「弱者が陥る罠」です。
 ランチェスター的には重点化・差別化すべきですが、売上・利益が減るので苦しいのです。かといって他の仕事の比率を上げると、まさに「論語読みの論語知らず」状態に。
 このジレンマを解決し、ランチェスター戦略の専門家として一点突破するには圧倒的な集客力と営業力を身につけることです。集客力のことを、情報を空中に撒き制空権を得るという意味合いから私は「空中戦」と呼んでいます。ビジネスの最前線である営業現場は、敵と味方の営業担当者の戦いの場です。敵味方が入り乱れての白兵戦、肉弾戦になることから、営業力のことを「接近戦」と呼んでいます。
 この空中戦と接近戦をするしかなかろうと思い立ち、04年1月にメールマガジンを発行しました(07年3月現在で発行部数3万5000部、まぐまぐ殿堂入り)。
 メルマガは私自身がランチェスターを勉強する量稽古の場であるとともに、空中戦型の集客の武器です。1年間で自社主催勉強会に延べ500名を集客し、その勉強会のテキストとして作成した小冊子を2000冊販売する接近戦型の営業活動を行ないました。それら読者・受講者の中からコンサルティングや研修の依頼が次々に来ました。これで我が社の財務状況の心配はなくなりました。
 そして05年5月、著書が発行され、07年3月現在で8刷と、順調に版を重ねています。
仕事の依頼の件数・内容・受注の確度ともに、さらに向上しました。
 もちろん、このことはランチェスター戦略そのものの力と関係各位のおかげに他ならず、私の戦略のみでできたことではありませんので、念のため。弱者の罠にはまりそうになりながらも、一点突破したわかりやすい事例として紹介したことをご理解ください。
 つまり重点化、差別化という一点突破の戦略は空中戦と接近戦を伴ってこそ初めて実現できるものなのです。私自身はメールマガジンというネット系メディアを武器にしました。しかし、同じやり方をあなたに押し付けるつもりはありません。私はコンサルタントという業の特性上、待ち型の営業職種なのでそのやり方が効果効率的でした。あなたにはあなたのビジネスの特性上、ベストな集客と営業のやり方があるはず。

 そこで、本書第4章では、広告・販促・PR・ブランディングという観点からネット系、アナログ系を問わず集客戦略=空中戦を取り上げます。第5章では、営業担当者の活動という狭い意味での営業戦略=接近戦を解説します。
 第6章では、一点突破した後に全面展開するために、強者の戦略と市場占拠率(マーケット・シェア)について解説しました。
 最後に、特別付録として9つのランチェスター式事業戦略ワークシートをご用意しました。本を読んだだけで業績が上がるはずがありませんね。学んだことを自社流に応用して実戦しなければ何も変わりません。そのためのワークシートです。書き方見本もあります。戦略作りに取り組んでください。そしてあなたの会社の数値中心の経営計画書に付け加えましょう。一点突破できます。

 小さな会社が陥る『罠』はすべて解除しました。これで戦略は作れても実戦が伴わないという言い訳ができなくなりました。本気で勝ちたいあなたのために書きました。それでは『ランチェスター戦略「一点突破」の法則』を始めましょう。

★プロローグのまとめ

  1. ビジネスの世界には「弱肉強食の掟」が存在している。
    掟に逆らって弱者逆転する軍事戦略上の3原則は「局所優勢」「各個撃破」「武器効率」。
  2. 3原則はビジネスでは「重点化」「差別化」と置き換えられる。
    この理論と実戦体系が一点突破「ランチェスター戦略」。
  3. 一点突破は集客力と営業力が伴わなければ実戦されない。これが弱者が陥る罠。
  4. 罠に陥らず一点突破するには「集客力=空中戦」と「営業力=接近戦」に強くなければならない。
  5. 一点突破したら全面展開する。弱者の戦略から強者の戦略へ切り替える。