ランチェスター法則とは。ランチェスター戦略コンサルタントが解説。

ランチェスター戦略は市場シェアを重視した考え方である。特定市場のシェアが企業の利益を決定づけるからだ。ゆえに、市場シェアは中小企業の社長が考えている以上に重要である。しかし、多くの中小企業は市場シェアを無視ないし軽視している。

特定市場のシェアが企業の利益を決定づけるのに、シェアを軽視する社長の会社は損をしている。シェアを知り、判断基準とし、シェアに応じた戦略をつくることで、勝てる。小さくても強い会社になれる。それなのに、シェアを軽視する社長が多いのは

社長の
①市場シェアに対する誤解
②市場シェアの把握方法が不明
③市場シェアの上げ方が不明

が原因と思う。

そこで、今回は①の市場シェアに対する誤解と、中小企業の市場シェアに対する筆者(福永)の基本的な考えを解説する。②と③は別の機会に。

なお、市場シェアは、市場占有率、マーケットシェア、市場占拠率とも呼ばれるが、ここでは「市場シェア」に統一して解説する。

市場シェアは大企業のスケールメリットの話と思ってないか!?

日経新聞を開くと、こんな記事を目にすることが多い。

・アサヒとキリンがビール市場で激しくシェア争いをしていて販促費がかさんでいる

・ペイペイなどスマホ決済サービスが会員確保のシェア争いで巨額の投資をしている

・ドラッグストアやホームセンターの業界で合併によりシェア1位企業が変わる

こんな記事を目にすると、多くの中小企業の社長は「スケールメリットを追求する大企業が投資をしてシェアをとりにいっている。それで本当に利益が出るようになるのか。そもそも資本力のない、消費者を対象にした事業でない中小企業にとって縁遠い話」と思うのではないか。

この感想の半分は正しいが、半分は間違っている。大企業は「先行投資を行い、市場シェアのナンバーワンとなり、その後、利益を得る」戦略は、ランチェスター強者の戦略である。大企業のなかでも業界トップか、それを狙える企業のみがとれる戦略である。その意味において中小企業には縁遠いと感じるのは正しい。

筆者(福永)は、中小企業が大きな市場でシェアのナンバーワンを目指せとは云っていない。中小企業が市場を広くとらえてシェアを求めると、万人受けの商品となり、ありきたりの商品、他社と似たような商品となる。

似たような商品の競争を同質化競争という。同質化競争とは価格競争やサービス合戦(スマホ決済サービスの各社がポイントを大盤振る舞いするようなこと)となる。消耗戦である。体力に劣る中小企業は避けなければならない。

ただし、中小企業が市場シェアを求めること自体を否定することは間違いである。中小企業は「自社の身の丈に合ったサイズに自社の市場を括り、そのなかで価格競争ではない差別化戦略で市場シェアのナンバーワンとなり、利益を得る」戦略をとる。ランチェスター弱者の戦略思想である。

特定市場のシェアが企業の利益を決定づける。スモールマーケット・ビッグシェアの原則と筆者(福永)は呼ぶ。

市場シェアと利益は相関する。ニッチャーの利益は業界平均の三倍

筆者(福永)はかつて、森下雅文さん(浜松市の中村健税理士事務所取締役)と玉居子高敏さん(東京の弱者逆転研究所所長)と統計調査を行った。小さな市場で大きなシェアを占める会社のことをニッチャーというが、ニッチャーが同業他社と比べて、どれくらいの利益性があるのか。

その結果、従業員1人当たりの生産性に大きな差があることが判明した。
①1人あたり売上高 :9倍~1.6倍
②人当たりの粗利(売上総利益) :6倍~2.0倍
③人あたりの営業利益 :9倍~2.5倍
④人あたりの経常利益 :2倍~2.7倍

ニッチャーは同業他社と比べて、1人あたり3倍の利益が出ている。1人が同業者の三倍稼いでいる。そんな企業は従業員の待遇も業界最高水準である。研究開発投資もふんだんにできる。優秀な人材が集まり、未来への投資余力があるので、いま儲かっているニッチャーはこれから、ますます儲かる可能性が高いことを示す。

詳細は拙著「ランチェスター戦略『小さなNo.1』企業」を参照のこと。同書では、筆者がニッチャーの社長45社にインタビューした内容が書かれている。どのように市場を小さく括ったのか。小さな市場のなかにもライバルは存在する。どのようにライバルと差別化しナンバーワンになったのか。この判断基準や考え方に迫っているので、参考にされたい。

拙著「小が大に勝つ逆転経営―社長のランチェスター戦略」では、市場の括り方、優先順位のつけ方、差別化の仕方、ナンバーワンの目指し方について、判断基準や考え方はもちろん、社長の実務までを筆者のコンサルティング事例で詳細に解説をしている。参考にされたい。

スモールマーケット・ビッグシェアの原則 事例で解説

拙著「小が大に勝つ逆転経営―社長のランチェスター戦略」は、筆者のコンサルティング事例で、社長が自社の繁栄のために戦略をいかに立て、推進していくのかを解説した。

序章で解説した事例2の不動産情報のポータルサイトを運営するネットベンチャーのREI(仮称)の場合。

投資用の不動産分野のポータルサイトに五番目に参入したREI。市場が成長市場であったことを追い風に、先発を差別化する武器で順調に業績を向上させていた。山口社長(仮称)は投資ファンドから資金調達し、上場を目指した。ファンドからは売上・利益を増やし、早期の上場を求められた。

生き馬の目を抜くともいわれるネットビジネスはスピード勝負。あせった山口社長は不動産の賃貸の仲介という大きな市場にうってでた。大きな市場であれば売上・利益を増やしやすいだろうとの判断だった。

しかし、大失敗に終わった。大きな市場には強大なライバルが存在する。革命的な武器がない限りは通用しない。REIの武器は投資用の不動産の分野では有効だったが、賃貸の仲介では通用しなかった。大赤字を出して撤退。

そして、投資用の不動産分野のポータルサイトというニッチに絞り、再度、上場を目指す。差別化した武器を磨き上げ、ネットビジネスの分野でライバルが軽視していた接近戦(訪問商談活動)を、ライバルが軽視していた地域を重点化して行った。

こうして掲載企業や掲載物件を増やした。特に他のサイトには掲載されていない物件を増やし、業界1位を奪取。2位をルート3倍引き離したダントツのナンバーワンになれば夢の上場が実現する。だが、ライバルもてごわい。

山口社長はコンサルタントの指導を求め、筆者(福永)が手伝うこととなった。結果は株式公開し、その後、一部に上場した。売上はいまも20億円未満である。一部上場としては最も小さい部類だ。ただし、経常が8億円以上出ている。経常利益率は上場企業のなかで最も高い部類である。

特定市場のシェアが企業の利益を決定づける「スモールマーケット・ビッグシェアの原則」とはこういうことをいう。

中小企業にはシェアは関係ないと誤解している社長は損をしている。シェアを知り、判断基準とし、シェアに応じた戦略をつくることで、勝てる。小さくても強い会社になれる。

では、どのように市場シェアを把握すればよいのか。そして、市場シェアをどのようしてあげていけばよいのか。別の機会に解説しよう。

今回はここまで。