月刊次世代経営者「ランチェスター地域戦略特集」福永雅文の解説記事

ランチェスター地域戦略でナンバー1を目指そう

葬儀業者のメモリアホールディングス(以降、メモリアとする)が、2000年に創業したとき、人口約2万人の岐阜県池田町を商圏とした。小商圏で大きなシェアをとるスモールマーケット・ビッグシェアのメモリアの戦略は、ランチェスター地域ナンバー1戦略の模範例である

第一に地域を「差別化」する。岐阜県の最大市場は岐阜市である。西濃(岐阜県西部)では大垣市である。このような大きな市場は強者が力を入れる。逆に池田町のような小さく遠い地域は後回しにする。メモリアは強者と差別化して池田町を商圏とした

第二に地域を「集中」する。かつて地方の町では町内会やお寺の檀家などの地域コミュニティで葬儀をしていた。池田町もそうだった。メモリアは人口2万人の町をさらに細分化して重点地域を決めて自社の地盤となる地域をつくっていった

第三に地域で「接近戦」を行う。接近戦とはもともと、敵と近づいて戦う軍事用語だが、ランチェスター戦略では顧客やユーザーとのコミュニケーションのことをいう。強者がテレビCMや折込チラシを広域に配布するのなら、弱者は個別に挨拶訪問をしながらポスティングをするといったことだ。地域を集中すれば少人数でも接近戦を展開できる

接近戦を展開すれば顧客のニーズがわかる。池田町でも葬儀場ホールの需要があることを接近戦で知ったメモリアは葬儀場をつくった。強い差別化の武器を手に入れたメモリアは小さな市場ではあるが地域ナンバー1となり、大きな市場の大垣市に進出していった

差別化と集中と接近戦に三位一体で取り組むことで地域ナンバー1を実現する。これがランチェスター地域ナンバー1戦略である

世界196カ国のうち、水道水をおいしく飲むことのできる国は10カ国に満たないという。日本の水道水は世界一おいしい。それゆえに日本では「水を買って飲む」という生活習慣が90年代までなかった。ウォーターポイント(以下、ウォーター社とする)は90年代から飲用水事業に取り組んできたパイオニアである。もともと水道工事会社である。水処理設備を中核とする飲用水精製の工場をつくり、水の自動販売機を開発した。そのウォーター社がウォーターサーバー宅配水事業に本格参入したときに問題意識をもった。「日本の宅配水は高く、業界には負のイメージもある」ということだ

なぜ、高いか。第一に宅配水を日用品ではなく贅沢品と思う人が多い。できるだけ高く売りたいと考える事業者が多くなる。第二に物流がコストアップ要因である。水は安いが重くかさばる。ゆえに物流コストが重くのしかかる。第三に市場の成熟化に伴う過当競争である。宅配水は東日本大震災をきっかけに普及したが、その後、市場は成熟した。価格は下落傾向にあるものの、広告費や営業費を投下せざるをえない

強引な営業のクレームが消費者庁に届くこともあり、業界のパイオニアであるウォーター社は業界を健全化していきたい志をもった。業界の負のイメージと差別化し、適正価格で優良商品を届けたい。そのための小商圏戦略である。運賃コストが安くなり価格を下げる。広告費を抑制し、強引な営業は行わない。防災・SDGsのビジネスモデルとし、地域コミュニティに共感の輪を広げていく。そうすることで、贅沢品か日用品かの議論に、防災用品でもあることを加えることができた

ウォーター社は差別化するために地域を集中した。そして工場を地域コミュニティの防災拠点とする接近戦を展開している。その結果、同業他社とは全くイメージの異なるオンリーワン企業となり、業界のイメージアップにも貢献している

南アルプスの貴公子と呼ばれる甲斐駒ヶ岳麓にある白州(山梨県北杜市)。サントリーの蒸留所があり、地名を冠したブランドもあるので知らない人はいない。甲州街道沿いの白州台ヶ原宿で、江戸時代から270余年続く造り酒屋が山梨銘醸である。ブランド「七賢」は日本酒の市場の衰退に伴い、かつてはじり貧傾向にあったという。

2014年にリ・ブランディングを行い、いまや世界で評価される日本酒ブランドの一つに生まれ変わった。

製品開発にあたり、白州の水に着目した。白州は日本でもトップクラスの超軟水である。この強みを最大限に活かす。酒米も白州の水で育った地元米とする。そしてスパークリング日本酒を開発。世界のコンクールに出品して次々に受賞。フランス料理の巨匠アラン・デュカスにも評価され、コラボ企画も実現。グローバル市場に進出した。日本では逆輸入ブランドとして、「七賢」は甦った

山梨銘醸は地域資源を差別化の武器としてグローバル市場に進出し、日本全国市場を強化した

メモリアはランチェスター戦略を学び、戦略のベースとした。ウォーター社は自社の戦略を強化するためにランチェスター戦略を学びなおした。山梨銘醸はランチェスター戦略を知らなかったが、自社の戦略はランチェスター戦略に適うものであることを確認した。中小企業の地域戦略の代名詞的な存在のランチェスター戦略とは何か、どう使うかを解説しよう

ランチェスター戦略とは競争戦略の理論と実務の体系である。多くの企業がこれを学び、自社の戦略に取り入れて成果を上げてきていることから、競争戦略のバイブルと呼ばれるものである。なぜ、多くの企業に取り入れられたのか。日本人が確立したことが大きい

ランチェスター戦略を確立したのは日本のコンサルタントの草分けの故田岡信夫先生である。コンサルタントが企業指導の原理として構築したのだ。わが国の経営風土、流通構造、地域特性に根差しているので、わかりやすい。「差別化×接近戦×集中=ナンバー1」と示したように、実践に即している

では、日本人が確立した理論にランチェスターという名称がついているのはなぜか?それは、田岡先生がこれを確立するにあたり、戦略思想の原点となった理論があるからである。この理論を「ランチェスター法則」という。第一次世界大戦のときに、イギリス人のランチェスター氏が提唱した戦争における戦闘の勝ち負けのルールである。これを経営領域に応用し、理論化した。原点の名をとって一般に「ランチェスター戦略」と呼ばれている

原点のランチェスター法則について解説しよう。戦闘の勝ち負けは、武器の性能と、兵力の数で決まることをランチェスター法則は示している。武器の性能とは戦うときの「質」の要素である。兵力の数とは「量」の要素である。戦いの質と量の要素で勝ち負けが決まるとの考えである

ただし、戦い方によって第一法則と、第二法則の二つの法則に分かれる。一対一で敵と密着して狭い範囲で戦う、そんな原始的、ゲリラ的な戦いの場合は第一法則が適用される。「戦闘力=武器性能×兵力数」である。一方、集団対集団が敵と離れて広い範囲で戦う、そんな近代的な戦いの場合は第二法則が適用される。「戦闘力=武器性能×兵力数の二乗」となる。第二法則は相乗効果を発揮するから兵力数が二乗する(図1)

この法則から勝ち方の原則を導き出すことができる。兵力数が少ない軍は第二法則の戦いでは勝ち目はない。第一法則の戦いは、一対一で戦えるので敵と味方の総兵力の影響を受けにくい。第一法則の戦い方を選ぶべきである。そして、武器性能を向上させる。さらに、少ない兵力を広く展開するのではなく、集中して使うことである

この原則をビジネスに応用する。武器性能を上げることをビジネスでは「差別化」という。兵力を集中することを「一点集中主義(略して集中)」という。第一法則の戦い方をすることからさまざまな戦法が導き出されているが、筆者は「接近戦」を重視している

ここから弱者と強者の戦略が導き出される。ランチェスター戦略では市場シェア1位を強者と呼び、2位以下を弱者と呼ぶ。弱者の差別化を基本戦略として集中や接近戦を重視する。強者は弱者の差別化を封じ込めるミートが基本戦略だ。総合的に戦う、自社の力を重層化させることも重視する

ランチェスター戦略の結論はナンバー1の市場シェアを目指すことである。自社の経営規模に合わせて、中小企業は地域や顧客層や商品を集中してナンバー1を目指す。

ナンバー1を目指す実務体系にはさまざまあるが、地域に根差したビジネスであれば地域ナンバー1を目指す。どこの誰に何を売るかだ。メモリアは葬儀場ホールがまだ無いまたは少ない地域に、新たな葬式のやり方に興味のある人に、葬儀場をつかった葬儀を販売して、西濃の郡部から地盤地域を県内全域に広げていった

地域戦略の第一ステップは地域を細分化することだ。岐阜県を例にする。まず、南部の美濃と北部の飛騨に大きく区分する。市場の大きな美濃は西濃・岐阜・中濃・東濃に分け、全体を5区分するのが原則である。BtoBであればこれでよいが、BtoCはここからさらに細分化していく。西濃も大垣・北部・西部・南部に分かれ、北部は池田・揖斐川・大野の三町に分かれる。最終的には小学校区単位程度まで細分化していく

第二ステップは重点地域を決める。その際、強者と弱者とでは選ぶ基準が異なる。強者は市場性を重視する。規模・成長性・地理的優位性である。弱者は勝ち易さを重視する。実績や地の利があることや強者が後回しにしていることなど

第三ステップが決めた重点地域を攻略していく。差別化の武器を使って接近戦を展開する。初期のメモリアは葬儀場ホールが武器だった。接近戦を展開していくと顧客のニーズがよくわかる。お墓へのニーズの変化に気づいたメモリアはいま、樹木葬が強力な差別化の武器となった

ウォーター社の場合は根本的な差別化をした独自のビジネスモデルでオンリー1を目指す戦略の手段としての小商圏戦略だった。東京で小商圏で宅配水を配達するにあたり、亀戸、八王子の順に拠点をつくった。亀は水の象徴であり、八王子は多摩川水系の高尾山の麓である。地域戦略ではなく水のイメージ戦略での選定だった。しかし、結果的に東京の東西の拠点が選ばれた。亀戸は城東地域、八王子は南多摩を攻略するのによい立地であり、地域戦略的にも適している

山梨銘醸の「七賢」はもともと山梨県を代表する銘酒であり、地域ナンバー1であった。同社をランチェスター理論に当てはめると、シャンパンと同様の瓶内二次発酵のスパークリング日本酒という商品カテゴリにおける差別化戦略である

それを実現したのが白州の水と米だった。地域資源が差別化につながった例である。山梨銘醸が参考にしたのが海外のワイナリーである。自然豊かな農山村で酒をつくるだけでなく、飲食店や宿泊施設ももつ観光産業化である

山梨銘醸は飲食店に加えて宿泊施設も開業して観光産業化しようとしている。江戸の町の風情が今に残る台ヶ原宿に立地し、甲斐駒ヶ岳・南アルプスの山岳リゾートの麓という地域資源を活かした差別化でお酒を文化体験にしようとしている

他社と重点地域を差別化する、地域を絞ることや地域資源の活用といった地域で差別化することでビジネスモデルを変え、ナンバー1やオンリー1を目指す。それがランチェスター地域戦略である

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