
月刊次世代経営者「ランチェスター地域戦略特集」事例2ウォーターポイント社 →
水道工事会社が出会った水の浄化技術
水の自動販売機の製造・販売と、宅配水事業などをメインの事業として行っているウォーターポイント。同社は1972年、現社長の小早川克史氏の父親が立ち上げた水道工事会社から始まった。
小早川氏が家業に入ったのは、95年。バブルがはじけ、水道工事の仕事は価格競争に陥り、下請け仕事に先が見えない状態となっていた。
「下請けとは別の仕事を探す必要性を感じていました」。
新規事業を模索していたとき、水の自動販売機や宅配事業の元となる技術に出会った。小早川氏が「井戸の配管をしてほしい」という依頼を受けたときだった。「飲用に適さない水を飲めるようにする水処理装置がある」という話を聞いたのだ。
「詳しく聞いてみると、もともとは海水を真水にするための装置だということでした。さらに、宇宙飛行士も宇宙ステーションでこの装置を使って尿を飲用水にしていると聞き、驚きとともに、この技術をつきつめてみたいと思ったのです」。
小早川氏は独学で水処理装置について学び、その心臓部にあたる「逆浸透膜」という技術に辿り着く。この技術に大きな可能性を感じ、米国から水処理技術を導入。独自に水処理装置を開発した。
しかし当時の消費者にとっては、まだ「水はタダで飲めるもの」というイメージが強く、ビジネスとしてどう展開すればよいかと、考えあぐねていた。そんな時、ある水道工事の取引先から「スーパーで、顧客サービスの一環として水の自動販売機を入れたい」というニーズがあることを聞いた。そこで同社がつくった水処理装置に、お金を入れると一定の量の水を出す「販売機」の部分をアメリカから輸入して組み合わせ、水の自動販売機を製造。2000年、販売を開始した。これが同社がつくった初めての水販売機だった。
「広島のスーパーに入ったのが最初の1台目でした。そこから何度も改良を重ね、今ではすべてを自社で製造。現在はスーパーを中心に、全国で3600台ほどの水の自動販売機を納入しています」。
宅配水事業への参入

一方、宅配水ビジネスは、広島市内にボトリング工場をつくり、2003年に開始した。他社に比べてもかなり早い時期での事業参入だったが、その後大手が参入し、宅配水市場は次第にレッドオーシャン化していくことになる。同社も試行錯誤を繰り返しながら、失敗と成功を重ねていった。
2013年、小早川氏は、「水を買う」習慣がついている都心部、東京都の亀戸に水道水を原水とした小さな工場を建設。周辺への配達を試みた。
「工場の規模が小さかったこともあり、欲張らずに周辺だけに絞って配達をすることにしました。従業員は2人だけ。配達はこの2人でできる範囲にとどめたのです。すると、これがうまくいった。まさにランチェスター戦略でいう、半径10キロメートルの法則でした」。
工場の近くに商圏を絞れば、配送も配送会社に委託せずに自分たちでできる。その分、水の価格を安く設定することも可能だ。社員が配達することで、お客様と直接話ができ、要望なども聞きやすい。より密なコミュニケーションを実現することができた。
さらに2022年、小早川氏は、新たに東京の八王子に工場を建設した。
「この工場は、最初から災害時に給水拠点となる工場にしようと考えていました」。
実はこの発想は、東日本大震災における悔恨から生まれたものだ。
「東日本大震災が起きた時、被災した東北地域の複数のスーパーにも、当社の水の自動販売機が設置されており、津波で流されてしまったものもありました。大手企業はもちろんのこと、中小企業である当社にも『水を送ってほしい』という要請が来ていましたが、想定外のことで、当時はすぐに対応することができませんでした。だからこそ、『次は必ず役に立ちたい』という想いから、災害対策にもなる宅配水の工場をつくりたかったのです」。
八王子の工場では、高尾山から流れてくる地下水を水源とし、水処理装置に同社で独自に開発した「逆浸透膜」を二重に使って水に含まれている成分を除去。そこに海洋深層水のミネラルを添加した。
「この工場にはソーラーパネルが設置されています。地下水を汲み上げているため断水することもなく、いざとなったら約2000人の水の確保ができる工場として、内閣府の資料にも掲載されています」。
宅配水事業への参入

しかし、八王子での宅配水事業は、すぐには軌道に乗らなかった。他社よりも安い価格を謳ってはいたが、すでに大手企業も同様の事業を行っており、「宅配水を頼みたい」と考える事業所は、ほとんどが別の会社と契約している状態。ただ「価格が他社より安い」というセールスポイントだけでは、話さえまともに聞いてもらえなかったのだという。
「ランチェスター戦略を取る以前は、過去、偶然うまくいった成功体験のもと、『同じようにやればいいだろう』と単純に考えていました。当社の製品は他社と比べても消費者にとって割安ですから、比較サイトなどに出せば契約を取れるだろうと勝手に思い込んでいたのです。ところ格、レッドオーシャンの市場に乗り込んでいく以上、ただ『安い』というだけではダメでした。今振り返れば、きちんとした戦略のもと、やっていく必要があったのだとわかります」。
「水の質は文句なしによい。その上安いのですから、すでに他社と契約をしていた場合でも、簡単にひっくり返せると思っていました。でも、それだけではだめだったのです。広島で拡販したときは、『他社に先駆けていたこと』、『広島という同じ地域の会社だったこと』などによって優位性を保っていたのだと、あとから気がつきました。八王子では違うマーケット戦略が必要だと思い、ランチェスター戦略を学び直すことにしたのです」。
その結果、やみくもに営業することをやめ、営業に関しては、ウェブ広告やテレビCMではなく、八王子に工場を持つ企業として、チャネル営業を行うことにした。
「工場の近くにある、地元八王子の企業に、取次店や代理店となってもらうことで、顧客への安心感を高めていこうと考えました」。
具体的には、新聞配達や宅配事業、牛乳配達を行っている会社など、配送機能を持つ会社を中心に、宅配水の導入と、協力会社として近隣の事業所を中心に拡販を依頼できないかと打診する方針を立てた。
工場から近い場所に会社があれば、配送のコストが下がる。さらに、地元で仕事をしている会社であれば、すでにお客さまと顔の見える関係性が構築されている。そうした会社が同社の水を販売してくれることで、自社の水の品質のよさを直接伝えることができると考えたのだ。
「最初は、『当社の宅配水を導入してもらうだけでもいい。使ってもらえばよさがわかるはずだ』という気持ちでやっていきました」。
その戦略が功を奏し、現在、10社ほどが特約店や代理店として同社の宅配水を販売するようになっている。
訴求ポイントを絞る
また、ユーザーへの訴求ポイントを3つに絞った。それが、「品質」「SDGs」「価格」だ。
品質については、逆浸透膜によって、水に含まれる不純物をほぼゼロにしていることを訴求した。逆浸透膜を活用して不純物を除去している会社はほかにもあるが、二重に行っている会社はまだないという。また、体によいとされる、海洋深層水のミネラルをブレンド。ブレンド後の水質を調査し、その資料を公開。科学的なエビデンスのもと、法律で決められている不純物の量が極端に少ない、高品質の水を提供していることを強調した。
SDGsに関しては、担当者が決まった時期に水のボトルを交換に行く、リユース方式を採用。空になったペットボトルを利用者がそれぞれゴミとして捨てるワンウェイ方式と比べ、ペットボトルゴミを極力出さない仕組みとした。また、水の製造から配送までがSDGsに着目した流れとなっていることで、消費者の共感を得るような訴求を行った。さらにその上で「業界最安値」を達成させた。
「八王子工場では、現在、社員3名で仕事をしています。通常時で1日あたり8リットルボトル500本分の水が製造できる規模ですが、少ない従業員でも稼働できる仕組みを考えました。工場の近隣をメインに宅配先を絞ったことで、配送費を抑え、それを価格に転嫁することで最安値を実現したのです」。
ランチェスター戦略によって戦略的に営業を行うことで、八王子の工場は軌道に乗り始めている。
水の事業を通して災害時の安心を提供する

「ランチェスター戦略を取る以前は、過去、偶然うまくいった成功体験のもと、『同じようにやればいいだろう』と単純に考えていました。当社の製品は他社と比べても消費者にとって割安ですから、比較サイトなどに出せば契約を取れるだろうと勝手に思い込んでいたのです。ところが、レッドオーシャンの市場に乗り込んでいく以上、ただ『安い』というだけではダメでした。今振り返れば、きちんとした戦略のもと、やっていく必要があったのだとわかります」。
現在、同社の社員は36名。宅配水に関わる人材は広島と八王子あわせて10名ほどだ。
「『同じようなシステムを全国で展開したい』という相談依頼がいくつかきています。通常、宅配水工場をつくった場合、1万件ほどのお客様先がないと利益が出ないと言われていますが、当社が確立した八王子工場のモデルだと、1000件あれば利益が出ます」。
さらに工場は、災害時に近隣住民に水を提供できる防災型の工場のため、通常は反対されることも多くある新工場の建設が、地域の人に歓迎してもらえるものとなる。
「会社だけでなく近隣住民に安心を提供することができる、よいビジネスモデルを構築できたと思います」。
今後、同社では、水の自動販売機の事業についても、地下水を汲み上げる装置を付属し、災害時に活用できる、いわば八王子工場の小さいバージョンへと発展させる提案も進行中だ。
「当社のモデルが全国に広まれば、災害時に水に困ることのない”強い”地域が、全国に生まれるのではないかと期待しています」。
【Company Profile】
- 社名: ウォーターポイント株式会社
- 所在地: 広島県広島市西区庚午北4丁目2-13
- 設立: 1972年
- 資本金: 2000万円
- 従業員数: 36名
- URL: https://waterpoint.co.jp/