
月刊次世代経営者「ランチェスター地域戦略特集」事例1メモリア社 →
浄化槽メンテナンス業から葬儀会社へ
人生の最期の締めくくりともいえる葬儀は、遺された人にとっては、故人とお別れをする大切なセレモニーでもある。亡くなった方を「ありがとう」という感謝でおくるお葬式を広めたい。そんな想いとともに会社を拡大し続けているのが、岐阜県大垣市に本社を置くメモリアホールディングスだ。
2000年の創業以来、同社を率いる松岡泰正氏は、ランチェスター戦略を駆使し、地道で堅実なやり方でシェアを広げ、会社を成長させてきた。
創業以前、松岡氏は、母親が経営する浄化槽メンテナンス会社に入社し、事業を手伝っていた。
「まちに下水道が整備される以前は、トイレを水洗化した場合、各家に浄化槽を設置して排水を浄化してから川などに流す必要がありました。母の会社は、その浄化槽の点検や清掃をする仕事をしていました」。
ところが、松岡氏が母の仕事を手伝いだして5年ほど経った時、営業エリアとしていた岐阜県揖斐郡池田町で下水道の整備が行われることになった。
「すぐに会社が潰れるわけではありませんでしたが、下水道が整備されれば、浄化槽は必要なくなります。当然その点検・清掃の仕事もなくなりますから、先が明るくないことはわかりきっていました。何かほかに代わる事業を始めなければならなくなったのです。そのとき母から、私と弟の兄弟2人で『葬儀業を始めてほしい』という提案があったのです」。
その話を聞いた松岡氏の弟は、岐阜県の中核都市である岐阜市の葬儀会社に修業に行った。松岡氏は、起業に関する知識も経験もなかったため、まずは知識をつけようと勉強を開始した。
「創業支援セミナーに参加して、起業の仕方や経営について学びました。そのときに出会った会計士の方に、ランチェスター戦略について教えてもらったことで、ランチェスター戦略を活用した経営を行うようになりました」。

ただ、「起業する」という決断を松岡氏はなかなかできないでいた。
「『自分に本当にやれるのか』という不安や恐れがあり、踏み切れずにいたのです」。
そんな時、伯父が突然、交通事故で亡くなった。その葬儀は偶然、松岡氏の弟が勤めている会社が行うことになった。
「それまで、葬儀というのは、お坊さんがお経をあげ、一人ずつ焼香をする。その一連の流れを淡々と進めていくだけのものだと思っていました。でも、弟がディレクションした葬儀は、そのイメージを覆すものでした」。

生前付き合いの深かった人が心のこもったスピーチを行い、多趣味だった伯父のために、詩吟仲間が手向けの詩吟を謡い、俳句仲間は俳句を詠んだ。
「故人の人となりを皆で感じながら偲ぶ、ほんとうによい葬儀でした。そのとき初めて『このような心温まる葬儀を提供できる会社をつくりたい』と思ったのです」。
どこにも負けない最重要エリアを設定
同社が誕生した2000年当時、池田町近隣の地域では、葬儀はまだ町内の住民などで協力して行うのが主流だった。そうしたこともあり、開業してから3カ月経っても、同社には一向に仕事がなく、あっても月に1、2件あるかどうかという状態が続いた。そこで、池田町の各家庭に一軒ずつポスティングを行ったという。
「実は広告を配った最初の電話は、知り合いからのクレームでした。でも、そのクレームのおかげで、チラシを配ればちゃんと見てもらえて、電話も来るのだとわかったのです。それで、諦めずにチラシのポスティングを行いました」。
そうして地道にポスティングをしていくと、少しずつ問い合わせの電話が入るようになった。一年目は赤字だったものの、2年目に同社は飛躍のきっかけを掴む。それが葬儀専用のホールの開設だった。池田町で本格的な葬儀場をつくったのは、メモリアが初めてだったという。
「ある時、遺族の方から『葬儀の場所を貸してほしい』と言われました。そこで、それまで倉庫やミーティングルームだった部屋を急遽、葬儀会場として提供することにしたのです。これが、葬儀場の始まりでした」。
それは、ある高齢の女性が亡くなり、別の場所に住んでいる親族が喪主となったときのことだった。亡くなった女性は施設に入っていたため家がなく、「葬儀ができる場所がないか」と問い合わせを受けたのだ。
すると、同社の敷地内で葬儀を行っていた様子を見た近隣の人から「葬儀の場所を貸してくれるのか? できるのならうちも借りたい」という問い合わせが入るようになった。
「葬儀場ニーズは大きい」と判断した松岡氏は、ドミナント方式で葬儀場の拠点を増やしていった。それに伴い、売り上げも順調に増え、創業5年目には3億円企業へと成長。現在は西濃地区と大垣市を中心に複数の葬儀場を展開している。

松岡氏によると、葬儀場の商圏は1.5キロから3キロほどと、それほど広くはない。エリア戦略を考える際、ランチェスター戦略では、よく自社を中心に半径10キロメートルの円を描き、その中を商圏とするように言われるが、葬儀業界の場合、かつて葬儀を村単位で行っていた名残もあるため、自治体や町内会といった区切りを1つの単位とする。そのほか、小学校の学区、交通量の多い幹線道路、電車の線路などを考慮しながら、商圏を設定する。
さらに、その地図の中で、同業他社があればその場所をポイント。シェアや高齢者人口、前年度の葬儀施行回数から予測死亡者数を割り出し、確認する。さまざまなデータを元に、線で囲んだ各地域を、最重要で狙うべきエリアS、重要エリアA、成り行きを見守るエリアB、切り捨てエリアCに分類、地図に書き込んでいった(図参照)。
このようにどのエリアに力を入れるかを一目でわかる形に分類していき、まずはS地域を中心に営業を行う。それにより、同社はエリアSにおいて、圧倒的シェアを獲得していくのだ。
「当社のように地域密着型でビジネスを行う場合、お客さまとの接点を増やしていく必要があります。そうすると、広いエリアに飛び飛びにお客さまがいるよりも、ある程度固まったところに集中していたほうが、ポスティングにしても直接家に訪問するにしても、効率がよい。そのため、意識的に狭い範囲で高いシェアをとっていくことを目指すようにしています。他者との差別化はランチェスター戦略でも重要だと言われていますが、なかでも『地域の差別化』はとても重要だと感じています。要するに『自社のエリアはここ』と自分の陣地をきちんをつくっていくことが、地方における中小企業が生き残る道だと考えています」。
新規事業のアイデアもお客さまの声がヒントになる
その後も、松岡氏はさまざまな施策を打ち出していく。
業界内でも早い段階で「会員制度」を取り入れて見込み客の獲得を進めたほか、結婚式場の開設、大垣市への出店などを矢継ぎ早に行った結果、2009年には売り上げが10億円に到達。さらに、後継者のいない同業他社をM&Aで傘下に収めるなど、岐阜県内でのシェアを高めていった。
しかし、ここ5年ほどは、成長スピードが鈍化している。というのも、葬儀へのニーズが多様化し、とりわけ葬儀の簡素化・客単価の下落傾向が顕著となっているからだ。
「20年頃から、今までのやり方が通用しなくなってきていると感じるようになりました。お客さまが何を望んでいるのかがわからなくなっているのではないかと思い、改めて、徹底的にお客さまの声を聞くことにしたのです」。
ちょうどコロナが世の中に蔓延する直前のことだった。同社の会員に向けて、直接家に訪問または電話で、葬儀やその周辺に関する不安や困り事について、どのようなものがあるのかを聞いていった。葬儀場のホールで開催するイベントでも、来場者にアンケートを書いてもらえる工夫をし、調査に協力してもらった。
ヒアリングで明らかになったのが、想像していた以上に葬儀の小規模化を求める声が大きいということだった。
「多くの人が、自分の子ども世代に迷惑をかけたくない。『予算をかけないようにしたい』と回答していました」。
また、以前はあまりニーズがなかった「お墓の準備について」など、“終活”に関心がある人も増えていた。とくにお墓については、子どもや孫がどこに住むのかといったことまで考えると、どうすればいいか迷っている人が多くいるということがわかった。
お墓をいつまで守り続ければいいのかといった不安に対する一つの解決策として、近年同社が扱い始めたのが「樹木葬」だ。
「樹木葬にはいろいろなパターンがありますが、従来のお墓のように子どもや孫が墓を守り続ける必要がありません。『墓じまい』の必要もなく、そのことに安心されるお客さまも多くいらっしゃいます」。
同地域では、同社がいち早く樹木葬の事業を始めたこともあって、新たな事業の柱として順調に成長しているところだという。
「新たな事業が順調に伸びている理由は、『本気でお客さまの声を聞きに行ったから』だと考えています。いかに顧客との接点を増やすか。ランチェスター的に言えば、『接近戦を制する』ということです。ランチェスター戦略は理論を理解しているだけではだめで、地道なことを実行できるかどうか、そこがいちばん重要だと思います」。



【Company Profile】
- 社名: 株式会社メモリアホールディングス
- 所在地: 岐阜県大垣市小野3-47-1
- 設立: 2004年(創業2000年)
- 資本金: 6000万円
- 従業員数: 130名(2025年12月現在)
- URL: https://www.memoria-hd.co.jp