世界30カ国で使用される高性能ポンプを開発
他社の追随を許さない「差別化」でニッチ市場でナンバーワンに

三和ハイドロテック株式会社代表取締役社長堀内清隆氏
生活のあらゆる場所で使われ
るポンプ台所やトイレといっ身近な場所から、石油化学、製薬、食品、半導体などの大規模な工場まで、ポンプは欠かせない製品である。工業系ポンプ業界で、高度な技術力により他社の追随を許さないのが、三和ハイドロテック。主力商品であステンレス製マグネットポンプは、国内シェア実に90%。圧倒的なナンバーワンの座を誇っている。海外にも評判は知れ渡り、現在30カ国以上に輸出されている。
主力製品は国内シェア00%ニッチ市場でトップを獲得
三和ハイドロテック株式会社は、95年の歴史をもつ工業用ポンプのメーカーである。主力商品である「ステンレス製マグネットポンプ」の製造では、国内90%のシェアを誇っている。「漏れない」「頑丈」「使いやすい」ことで知られ、国内はもとより、海外30カ国以上で使用されている。
「頑丈なステンレスを使い、磁石を組み込むことによって完全密閉構造を実現しています。製造工程で液体が漏れると、そのたびに分解してメンテナンスしなければなりません。弊社の製品は液漏れを完全に防ぐ構造になっており、手間とコストがかからないのが特徴です」と同社代表取締役社長の堀内清隆氏は説明をする。
現在、ステンレス製マグネットポンプを製造しているのは、日本では同社だけ。世界でも数社しかない。非常にニッチな市場である。どうやって市場を見出し、その頂点に立ったのだろうか。
設立は1934年(昭和9年)。堀内氏の祖父が、大阪帝国大学(現・大阪大学)との共同開発によりステンレスの鋳物を製造したことに始まる。当時は「未知の金属」であったステンレス。ドイツからの輸入品はあったものの、国内での製造は初めてだった。錆びずに耐久性に優れているステンレスは、画期的な新材料であった。
1937年にはステンレス鋳物を使ったポンプの製造に成功。
戦後の高度経済成長で急伸する石油化学系プラントに無くてはならない製品となっていく。
しかし、材料の進化に伴い、1980年頃から安価で良質の金属が次々と登場。ステンレスポンプに新規参入するメーカーが増え、競争が激化していった。「ステンレスという素材に頼れなくなり、独自性を打ち出せなくなりました。収益も減りはじめ、他社にはない新しいものをつくらねば、という危機感を抱いたのです。特徴のあるポンプを生み出したい。ポンプでは先進的なヨーロッパから情報を集めました。そうして見つけたのが、ステンレス製マグネットポンプだったのです。ドイツやイギリスでは、すでに製品化されていましたが、これを製造しようという日本企業はまだありま「せんでした」。
こうして他社との差別化をはかるためにマグネットポンプの製造に乗り出していく。
最大の問題である液漏れを磁力によって解決

当時、最大の取り引き先であった石油化学工場では、ポンプからの液漏れが問題になっており、法規制が強化されつつあった。工場では高温、高圧で液体を流すだけでなく、毒性の強い液体を使用するケースも少なくない。そのため、一度液が外部に漏れてしまうと、大きな被害を引き起こしてしまう。ここの問題を解決するために用いたのが、強力な磁石(マグネット)。ポンプの内部に磁石を組み込み、磁力により完全に密閉する技術を生み出した。
「従来のポンプは、液漏れを防ぐためにシールという部品を使っていました。しかし、完全には密閉できませんでした。試行錯誤の末、磁力を用いることで克服できたのです」。
1983年、海外から取り寄せた文献を参考に、ステンレス製マグネットポンプの試作品をつくる。その情報を耳にしたアメリカの大手商社であるマグナテック社が、製品を視察するために来日。そこで評価されたのをきっかけに、それまで国内販売だけであった同社が、海外でも知られるようになっていく。ここから一気に市場が広がっていった。
「アメリカに実績ができたことが大きかったですね。海外で使用されていると知り、日本の石油化学企業も導入するようになっていきました」。
リーマンショックで売り上げが6割まで急減
1990年、さらに大きな転機が訪れる。富士通が製造し日本初の水冷式スーパーコンピュータの冷却水循環用ポンプに、ステンレス製マグネットポンプが採用されたのだ。その数、実に6000台だった。
「それまで取り引き先は石油化学メーカーが大半でした。しかし、ここから一気に顧客の層が広がっていきました。大きな転換点だったと思います。自動車メーカーや様々な素材産業にも導入されるようになりました」。こういった動きを知って参入してくる企業もあったが、長くは続かず、いつの間にか撤退していった。創業以来、さまざまなポンプをつくってきた専門メーカーである三和ハイドロテック。蓄積してきた経験と技術力においては、他社の追随を許さなかった。
これを契機に、ステンレス製マグネットポンプに一層力をいれていく。スーパーコンピュータ用のポンプで得た知見を生かして、より進化したポンプを打ち出していった。
次第に主力商品となり、2000年には同社の売り上げの5割、現在は7割を担うまでになっている。シェアも次第に伸びて、圧倒的な「勝者」となっていった。
しかし、快進撃が続いていた99年、大きな打撃を被ってしまう。「リーマンショックです。今でも忘れませんが、9年の1月に入った途端、売り上げが激減し、前年度の6割まで落ち込んでしまったのです。もう元には戻らんと覚悟しました。とはいえ、社員を減らすわけにもいかない。何とかしないとダメだ。存亡の危機を感じました」。
そこで、堀内氏は考え抜いた末に策を講じた。まず手をつけたのが、未知の分野への営業である。それまで取り引きのなかった食品業界に積極的に営業をかけた。食品メーカーのラインでは、衛生面が厳重にチェックされる。万が一、雑菌が混入したら大事故につながってしまう。そのため、完全密閉構造のポンプを衛生面最重視のサニタリー仕様に改造。新たに販売していった。
「それまでは弊社から取り引き先への直接販売だったのですが、商社を介しての間接販売にも乗り出しました。商社を通せば、今まで使っていなかった分野にも採用してもらえるからです」。そして当時、成長しつつあっエネルギー分野へも勢力的に提案営業をしていく。海外進出にも一層の力を入れていった。「海外では、スーパーコンピュータに採用された実績を全面的に打ち出して、営業をしていきました。こういった戦法が効果を上げていき、業績も少しずつ回復していったのです」。現在は、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、中南米、オーストラリア、アフリカの30カ国以上で使用されている。中でもアメリカでは200社を超す企業が導入しており、世界シェアナンバーワンも視野に入る状態である。
30年先を見据えて新技術・新製品を追い求める

創業以来続けてきた社内でのステンレス鋳物製造を2003年に廃止。中国などから安い鋳物製品が輸入できるようになったため、製造中止を決断した。「創業時の事業をやめるのにあだって、最後の鋳込みでエンブレムをつくりました。創業者の仏前に供えています」。
鋳物製造を外部に出すことで、作業面、コスト面での負担を減らし、その労力を新技術の開発へ注力していく。
「ステンレス製マグネットポンプは、従来のポンプに比べて確かに初期費用がかかります。しかし、液漏れしませんし、耐久性にも優れている。従来型のポンプの方は頻繁に分解して洗浄するメンテナンス作業が必要です。故障すれば製造ライン自体を止めないといけません。少し高いけれど、三和の製品が良い、と言ってくださる企業に向けて、さらに良い製品を提供したいと考えています」。
近年は食品メーカーの導入が相次いでいる。ステンレス製マグネットポンプは冷却水が要らないという大きな特徴がある。水を節約できるので、大量の水を必要とする食品工場で重宝されている。駆動音も静かなため、市街地にある工場でも使用できることもあり、大企業だけでなく、小規模の工場にも次々と導入されている状態だ。
また、リニアモーターカーの冷却水循環用や近年増えている水素ステーションにも採用されている。
「水素ステーションでは、圧縮された水素をプレクールという設備によってマイナス40°Cまで冷却させます。この温度に耐えられるポンプを製造できるのは日本では弊社だけです」。
創業以来556年、「新技術・新材料・新製品」を企業理念とし掲げてきた。それを追い求めることで他社との差別化に成功したのである。
「世の中は常に変化しています。20年30年後には、今ある製品やお客様の層もガラリと変わっているはずです。現状に甘んじることなく、新しいものを生み出していかないと生き残れません。我々が仕掛けて、これからも新しい市場をつくり出したいと思っています」。
ランチェスター戦略実践ポイント
- ニッチな市場を見出し、そこでナンバーワンの座を獲得する
- 高性能・高品質の製品を提供し、圧倒的な信頼性を得る
- 常に研究・開発を進め、他社には真似できない製品をつくる
