
JR大宮駅近くに本社を構える株式会社シンミドウは、中小企業向けの新卒採用支援事業を軸に成長するコンサルティング会社だ。同社は東京という一大マーケットを捨て、あえて「大宮から下り」 のエリアに集中することを選び、事業内容も絞り込んだ、なぜそのような決断に至ったのか、現在どのような差別化戦略を行っているのかを代表取締役の笹田知弘氏に聞いた。
新卒で入社した経営コンサルティング会社を3年で退職し、26歳のとき、埼玉県の自宅で起業しました。当初は中小企業のISO規格の取得支援事業を手がけていたのですが、次第にお客様から人材採用や育成に関する悩みを相談されるようになりました。とはいえ、私一人の会社だったので、採用経験がないままにアドバイスしても説得力がありません。そこで2008年度新卒を対象に、求人をかけることにしました。
普通に募集しても学生は来ないと思い、「社長になりたい人、実家の事業を継ぎたい人、集まれ!」という募集広告を打ちました。彼らいずれ離職する可能性が高く、一般企業の採用とは競合しにくいという、私なりの差別化戦略でした。その結果、なんと131名が応募、うち49名が選考に進み、2名を採用できました。以降、毎年新卒採用を行っています。この成果に驚いた採用広告会社から代理店の話をもらったのをきっかけに、08年に東京都・池袋に事務所を構え、企業の人材採用支援事業を始めることにしました。
自社の強みを考えて 地域・顧客・商品を絞り込む

次の転機は、社員が7名に増えた11年に本社を埼玉県・大宮に移したことです。営業活動をしていると、埼玉、群馬、栃木、千葉など、東京から離れれば離れるほど競合の数が減り、受注確率が上がることに気づいたからです。当時、東京の企業に対する売上が3~4割を占めていたのですが、一方で競合他社も多く、営業効率は良くありませんでした。加えて、私を含めて全社員が埼玉県に住んでいたため、通勤時間が短縮できるメリットがありました。
さらに16年には、東京の企業への新規営業を一切やめました。東京より埼玉の顧客のほうが次年度以降の継続率がはるかに高かったからです。埼玉在住の社員たちは、地域のことをよく知っており、経営理念の“シンミになった仕事ができていたからでしょう。
対象エリアを絞る上でのキーワードは「大宮から下り」。新幹線が発着する大宮駅の近くに本社があるので、北関東、東北、北陸、信州などの顧客にもアクセスしやすく、顧客の元へ足を運び、直接コミュニケーションをとることも容易です。コロナ以後、競合他社はオンライン商談が多いようですが、人事に関わる大事な話は対面でしたいはずだと考え、これも差別化につながりました。
”脱東京”を推進する中で、当社の取り組みはまさにランチェスター戦略に合致していると気がつきました。前職時代からこの戦略の概要は知っていましたが、改めて勉強する機会を得て、自分の方向性が間違っていなかったと再確認でき、自信を深めました。
顧客においても、当社の取引先は売上高10億円前後の企業が中心です。特に、地場産業である建設業や製造業をはじめ、運送業やサービス業などが多いのですが、人事部をもたず、専任の採用担当者を置いていません。入社説明会の開催やインターンシップのプログラム作成まで幅広く任されるようになり、顧客からは「社外の人事部」と呼ばれています。
また、当社の商品といえる採用支援業務は新卒、第2新卒分野のみとしました。ボリュームが大きいのは中途採用ですが、競合他社も多く参入しています。当社は自社の社員採用も新卒にして成長してきましたから、説得力のある提案ができるのが強みです。最近は事業承継した2代目が「社員の若返りを図りたい」、上昇志向のある経営者が「事業規模を拡大したい」などの理由から新卒採用を希望するケースもあります。
こうした差別化戦略により、脱東京を宣言した16年に比べて、22年の売上高は3倍以上に伸びました。
ランチェスター戦略を使い自社の勝ちパターンを見つける

ランチェスター戦略を取り入れる際の経営者の最大のハードルは、何かを捨てなければならないところにあります。当社も、一定の売上があった東京という日本一の市場を捨てるにはかなりの勇気が必要でしたが、何かを手放さないと新しいものはつかめません。
社員の理解をどう得るかも重要です。池袋から大宮に移転する際には、東京の会社で働きたいという社員もいましたが、丁寧に説明することで社内をまとめました。「東京で大きい案件がとれそう」「顧客から中途採用の手伝いを頼まれた」など、当社の方針とは異なる案件も舞い込んできます。常に葛藤はありますが、「今のタイミングではない」「会社の身の丈にあったことをしよう」と社員にも言い聞かせています。ランチェスター戦略の理論は、このようなときにも経営判断を誤らないための歯止めになっています。
新分野を開拓する場合は、既存事業の周辺から広げると決めています。メイン顧客である地場の工務店からの要望を受け、人材育成やデジタル化、広報を手伝う「工務店特化事業」がそれに当たります。「社外広報部」という位置づけで、好調に伸びている事業ですが、他業種を対象にする予定はありません。地場の工務店に絞っているからこそ、当社の強みを活かせると思うからです。
ランチェスター戦略は、顧客に対して個々の採用コンサルティングを行う際にも活きています。例えば大宮に本社を置く顧客が、大宮か東京だけで学生を集めようとしてもなかなかうまくいきません。多くの企業が求人を出しているため、競争が激しく、学生は自分にとってより好条件の企業に流れてしまうでしょう。ですから、当社は「社長、“下りに行きましょう」と勧めています。大宮から下りに位置する、埼玉県・熊谷、群馬県・高崎、栃木県・小山などにアプローチするのです。東京だと地元から遠すぎるけれど、都会では働きたいという学生の希望を、大宮という立地なら叶えられます。「学生の少ない群馬や栃木に求人を出すという考えはなかった」とよく言われますが、こうした逆転の発想で採用に成功したケースは数多くあります。

私は創業者であるため、先代、先々代が築いてきた経営の原理原則や勝ちパターンをもちません。一応自分なりの勝ちパターンはありますが、それは自分だけの経験則から見出したものに過ぎません。だからこそ、ランチェスター戦略の経営理論を自社に当てはめることは、頭の中を整理し、取り組むべきことを見極めるのに非常に役立っています。差別化、地域戦略をもとに、地域、顧客、商品を絞り込んだ経営方針こそが、当社の勝ちパターンだといえます。
月刊SMBCマネジメントプラス23年11月号シンミドウ様→