営業戦略・地域戦略の実務

ランチェスター戦略の実務体系

1.既存事業の「深耕戦略」と新分野への「進出戦略」

前回までの基本理論は、自社の経営戦略の土台となるものです。ランチェスター戦略には、これらを実際の現場で活用するための具体的な実務体系(既存事業の深耕戦略、および新分野への進出戦略)が確立されています。

ランチェスター戦略は中小企業向けといわれます。多くの理論が大企業向けにつくられているのに対して、「小が大に勝つ」戦略が理論化されているので、その通りですが、大企業に向かないわけではありません。
大企業でも支店・営業所で既存事業を深耕する販売目標・戦略・行動計画を策定する際には大いに役立ちます。

筆者(福永)も中小企業のみならず、大企業にもランチェスター戦略を導入してきました。中小企業の場合は社長をはじめとした経営層・営業責任者へ、ランチェスター戦略を指導原理にしたコンサルテングで経営戦略・販売戦略の策定方法を導入してきました。

大企業の場合は営業所長などを対象とした「ランチェスター戦略研修」で販売目標・戦略・行動計画の策定方法を導入してきました。ランチェスター戦略は「ブランチ(支店・営業所)の戦略」「汗の匂いのする戦略」といわれるゆえんです。


顧客最前線の営業現場にこそ、戦略が必要であるとランチェスター戦略コンサルタントの筆者は考えます。というのも弱者・強者、シェア順位は商品・地域・販売チャネル・顧客によって入れ替わります。会社が大きいからといって強者とは限りません。逆に小さいからといって必ずしも弱者ではありません。

営業現場単位で市場地位を見極め、地位に応じた戦略で戦うべきです。同じ会社でも営業現場単位で戦略を切り替える必要があります。だから営業現場に戦略が必要です。戦略は社長や本社が考え、現場は実行するのみということでは勝てません。

既存事業を深耕する販売目標・戦略・行動計画を策定するのに役立つのが、ランチェスター戦略の「地域戦略」「販売チャネル戦略」「シェアアップ戦略」「営業戦略」の実務体系です。

一方、経営レベルでは新分野への進出戦略も必要です。それについては「市場参入戦略」の実務体系があります。
と新規進出を網羅する5つの実務体系について、その要点を解説します。

2.ランチェスター式市場参入戦略編
3.ランチェスター式地域戦略編
4.ランチェスター式販売チャネル戦略編
5.ランチェスター式シェアアップ戦略編
6.ランチェスター式営業戦略編

について、その要点を解説します。


    2.ランチェスター式市場参入戦略編 〜市場時期別の戦い方〜

    企業の成長発展の方向性は4方向あります。一つは既存製品を既存市場に販売する市場浸透戦略です。これについては次項の「3.ランチェスター地域戦略編から、6.ランチェスター営業戦略編まで」の体系で既存事業の深耕戦略として解説します。

    二つ目が既存市場に新製品を投入する製品開発戦略、三つ目が既存製品を新市場に売っていく市場開拓戦略、そして四つ目が新製品を新市場に投入する多角化戦略です。ランチェスター市場参入戦略編では、製品開発戦略、市場開拓戦略、多角化戦略を取り扱います。

    ランチェスター市場参入戦略編の要点は市場の時期や先発・後発の順によって戦略を転換することです。市場導入期はグーの戦略、市場成長期はパーの戦略、そして市場の成熟期以降はグーの戦略をとることが原則です。グーパーチョキ理論と申します。

    先発して市場に参入する場合はグー→パー→チョキと戦略を時期に応じて転換していきます。後発の場合は参入時期によって戦略が異なります。いずれも、いま、どんなときを戦っているのかを把握することが要点です。

    ランチェスター戦略の第1の指導原理は「市場地位別の戦い方」です。弱者には弱者の戦い方がある、1位とナンバーワンでは異なる、「足下」を叩く、といった市場シェアとその順位によって戦略が異なることを指導しています。

    第2の指導原理が「市場時期別の戦い方」です。市場の導入期と成長期と成熟期以降とではとるべき戦略が異なることです。これがグーパーチョキ理論です。

    市場参入戦略編が充実しているのが下記の拙著です。


    3.ランチェスター式地域戦略 〜ターゲット地域を決定する〜

    地域戦略は営業地域(メーカー・卸のテリトリー、店舗型ビジネスの商圏)を細分化し、 重点化し、ナンバーワンのシェアの地域をつくっていく実務です。地域全体での市場地位 に応じて重点地域の選択基準が異なることが要点です。

    市場規模、市場シェア、人口、世帯数など、地域を定量的にとらえるのみならず、地域特 性(点・線・面、うちもの・そともの、など)を定性的にとらえる独自のノウハウが充実 しています。

    ランチェスター戦略の原点は軍事戦略理論。戦争とは領土の奪い合いです。この原点との 親和性が高く適用事例も多い。ターゲット地域を決定する “ランチェスターの華”とい える実務です。

    これ以降の実務体系の4.ランチェスター販売チャネル戦略編、5.ランチェスター シェア アップ戦略編、6.ランチェスター営業戦略編は営業員がいる会社の実務です。小売店や店 舗型サービス業の場合は、訪問外販は限定的ですので、この3.ランチェスター地域戦略 編が中心的課題になります。

    貴社には地図があるでしょうか。自社の売り上げの母なる大地を捉えた地図が。顧客の分 布状況や自社とライバルの拠点が一覧できる地図は地域戦略の必須アイテムです。

    地図の作り方や、各地の攻略方法の原則については下記がお奨めです。

    『ランチェスター戦略「営業」大全』(109ページ〜)。


    4.ランチェスター式販売チャネル戦略編 〜チャネルの差別化と接近〜

    チャネルを制するものは市場を制する。市場シェア1位の強者は最大の販売チャネルをも っています。弱者は既存のチャネルでは強者に歯が立たないので、強者とチャネルを差別 化します。新たなチャネルが登場した時も、弱者は強者と差別化できるので積極的に反応 します。強大なチャネルをもつ強者はそれを守ろうとして後手になることがあります。弱 者逆転が起きやすいのです。

    販売チャネルの区分方法はいつくかありますが、直接販売と間接販売の区分は重要です。 弱者は直接販売を重視すべきです。間接販売をする場合でも川下作戦や源流営業といわれ る「顧客の顧客やユーザー・消費者」に接近していくことが販売チャネル戦略の要点です

    筆者(福永)は、販売チャネルを幅広くとらえて、販売方法全体として考えます。見込事業 か受注事業か。5つの販売方法。ルートセールス型か案件セールス型か、など。

    それら広い意味での販売チャネル戦略については下記がお奨めです。

    『ランチェスター戦略「営業」大全』(167ページ〜)


    5.ランチェスター 式シェアアップ戦略編 〜ターゲット顧客を決定する〜

    シェアアップ戦略は間接販売の場合は販売チャネルやその先の顧客をとらえて、直接販売 の場合は顧客をとらえて、シェアアップのシナリオを描き、ターゲットとなる代理店やユ ーザーを定めることです。

    シナリオとは、①新規開拓を何軒行うのかの増客、どの顧客の顧客内シェアを上げて何軒 ランクアップさせるのかの増注。②どの地域、どの顧客層、どの商品で増客・増注をする か、を決めることです。

    シナリオづくりとターゲット選定を定めるために、ランチェスター式ABC分析を行い、顧 客を戦略的に格付けることが、ランチェスターシェアアップ戦略編の要点です。カバー 率とAa率(大口需要先のなかでの自社メイン先の割合)からシェアアップのシナリオを導 く「構造シェア」という概念もあります。

    ターゲット顧客を決定する“ランチェスターの要(かなめ)”といえる実務です。

    シェア30%を来期35%にしたいとき、あと5%多く働け、といっても達成しませんね。 Aa候補先や新規開拓先を固有名詞であげないと現場で役立つ戦略は作れません。ランチ ェスター戦略が構築されて40年以上が過ぎた今日も、多くの営業現場が取り入れているの は、この実務体系があるからに他なりません。これを実行せずして、ランチェスター戦略 を知っているとは言い難いのです。

    ランチェスター式ABC分析の方法やシェアの把握方法については下記がお奨めです。

    『ランチェスター戦略「営業」大全』(195ページ〜)


    6.ランチェスター式営業戦略編 〜活動の質と量の最適化〜

    1 営業員攻撃力の法則  :攻撃力=活動の質×活動の量
    *優れた人材が適正な戦略のもと適正な活動をたくさんやれば業績が上がること を意味する

    2 営業員攻撃量の法則  :攻撃量=商談時間×商談件数・回数
    *攻撃とは顧客とのコンタクトをしている時間と捉えている。訪問と訪問以外の  顧客とのコンタクトの質・量を最適化する

    3 営業チーム攻撃力の法則:攻撃力=活動の質×活動の量の2乗
    *チームパワーを発揮すれば相乗効果を発揮して足し算以上の成果が上がる

    上記の法則を基に、営業活動を最適化していく実務体系です。ルートセールスや既存客の 増注において大切なことはランチェスター シェアアップ戦略で定めた顧客の戦略的格付 けに応じた、攻略の方針と攻略の量の最適化です。定期訪問が要点です。

    案件セールスや新規開拓の増客において大切なことは商談プロセスの定義とその進捗管理 です。新規開拓4回訪問の原則という手法もあります。

    X(デジタル化)、非接触型コンタクト(訪問以外の顧客接点)、働き方改革(残業減)、 離職率を下げチームパワーを発揮させること、といった時流を捉えて、営業部門は営業方 法をバージョンアップしていかなければ競争力は高まりません。

    筆者(福永)は ・残業を減らしながら訪問を増やし、業績を向上させる方法 ・全員参加型営業マニュアルの作成 ・令和時代の営業員像づくり といったコンサルティングに取り組んでいます。

    『ランチェスター戦略「営業」大全』(233ページ〜)

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